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映画の感想と勉強日記

官僚の働き方問題と公務員の少なさ


転職希望の公務員が急増 外資やITへ流れる20代 :日本経済新聞

人材大手エン・ジャパンの転職サイトへの国家公務員と地方公務員の登録者数(教師や警察官などを除く)は19年10~12月期は1万2379人で、前年同期に比べて22%増加した。17年に集計方法などを変えたため単純比較はできないが、登録者数としては2000年のサービス開始以降で最高となった。

公務員の働き方が問題となっている。民間への人材流出も止まらない状況だ。非常に大きな問題だと思うので、いくつかの記事や重要なレポートなど引用しておきたい。

厚労省若手のレポート

https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/youth_team.html

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若手官僚が厚労相に「緊急提言」 36歳代表者が込めた思い : J-CASTニュース

昨夏に厚労省の若手チームがまとめたレポートについての記事。

厚労省の職員約3800人にアンケートを実施したり、省内外の関係者にヒアリングをしたりした。その中で聞こえてきたのが、

厚生労働省に入省して、生きながら人生の墓場に入ったとずっと思っている」
「家族を犠牲にすれば、仕事はできる」
「毎日の帰宅時間が遅い、業務量をコントロールできない」

   緊急提言では、具体的内容として、以下の内容を求めている。

(1)生産性の徹底的な向上
(2)意欲と能力を最大限発揮できる人事制度の改革
(3)「暑い・狭い・暗い・汚い」オフィス環境の改善

中でも、国会対応が多忙さの一番の理由という。

厚労省職員の負担になっているのは、国会業務だという。国会で開かれる委員会のスケジュールは、1~2日前に決まる。開催予定が直前まで決まらなければ、質疑する議員からの質問通告が遅くなる。通告が開催前日深夜に及べば、答弁作成業務も深夜になる。

 

「事前に何を質問されますかと議員の先生にお伺いに行くが、どうしてもタイミングが前日の夕方や夜になる。そうすると、100問や200問の質問を夕方からさばかなきゃいけない。深夜労働や長時間労働になる。国会は会期中、ほぼ毎日開かれていますから、毎日深夜労働みたいな状態です」

 

 

残業時間の多さ、自殺率の高さ

慶応大の岩本特任教授のレポートによると、

「月平均残業時間は民間の約7倍、自殺率は1.5倍」

だという。上の日経の記事にも紹介されていたレポート。政策提言|日本パブリックアフェーアーズ協会

この図は衝撃的ですね。
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霞が関のリアル」

厚労省で働いてる女性が妊娠しているにも関わらず、午前3時まで働かされているというNHKのルポ。言葉を失う。人事院に問い合わせたところ、国家公務員に労働基準法は適用されておらず、民間と同様の長時間労働規制はあてはまらないという回答が。以下が説明。

国家公務員の働き方を規定しているのは、人事院規則です。
この規則は、新年度の働き方改革のスタートにあわせて見直され、残業の上限も原則月45時間と明記されました。

しかし、民間企業と違って罰則はありません。しかも、他律的な業務の比重の高い部署は月100時間未満の超過勤務が行えるという例外規定もあります。その部署をどこに定めるかも各省庁に委ねられているため、過度な勤務をどこまで規制できるのか、疑問が残ります。

NHKの「霞が関のリアル」特集は非常に参考になると思う。

「親不孝な息子で本当にごめんなさい」

5年前の3月。こんな遺書を書き残し、総務省の31歳のキャリア官僚が自殺しました。
亡くなる前の残業時間は過労死ラインを大きく超える月135時間に上っていました

で始まる、「あるキャリア官僚の死」とか。News Up あるキャリア官僚の死 | NHKニュース

 

あと、メンタルヘルスに悩む職員も多いという(「心身病む官僚たち」)WEB特集 心身病む官僚たち | NHKニュース

うつ病などの精神疾患で1か月以上仕事を休んだのは2017年度で3800人余り、過去3年で見ると、増加傾向」

「全職員に占める割合は1.39%。これに対し、厚生労働省が民間企業を対象に行った調査結果は0.4%」

大阪大の北村亘教授の指摘は、

この2~3年での仕事の変化を尋ねたところ、『業務量が増えている』『複雑化、高度化している』という回答が全体の7割に上りました。確かに補正予算を組む回数も増えているし、社会課題も複雑化しています。また、大規模な災害も多くなっているのに、職員は減っているという事実があります。状況は厳しくなっていますね

 

業務が増えているのに、職員は減っている。

 

公務員の少なさ

やはり、『市民を雇わない国家』という話になるのかなと思う。

前田さん自身の本の紹介もある。UTokyo BiblioPlaza - 市民を雇わない国家

 

日本は先進国の中では極めて公務員が少ない国です。国と地方を合わせて330万人ほどですが、人口比でいうと、欧米諸国の数分の1です。公務員数を抑制する慣行が長く続いていましたが、2000年代は行財政改革の一環で、公務員削減を掲げる政治家が多く現れました。

声をつないで:ジェンダー視点で眺めると世界は激変 「女性のいない民主主義」著者、前田健太郎・東大准教授 - 毎日新聞

 

以下の図は、2005年の野村総研のレポートから。ちょっと古いデータだけど、日本が「公務員の少ない国」であることがわかる。研究会報告書等 No.21 公務員数の国際比較に関する調査|内閣府 経済社会総合研究所
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「我が国の公務員数は、約 538 万人、人口千人あたりでは、42 人となっている」「なお、英仏米独の主要4ヶ国と比較すると、イギリス 98 人(フルタイム換算職員3数 78 人)、フランス 96 人、アメリカ 74 人、ドイツ 70 人となっており、日本の公務員数の水準は相対的に低いといえる」

2005年の調査時のデータの比較だけど、公務員の数が他の国に比べてかなり少ないことが分かる。

 

 

安全保障化の説明、コロナウイルス


非伝統的安全保障とスウェーデンにおける「移民の安全保障化」 / 清水謙 / スウェーデン政治外交史・国際政治学 | SYNODOS -シノドス-

安全保障化、セキュリタイゼーションの分かりやすいまとまった説明。具体例としては、スウェーデンでの移民の安全保障化が分析されてる。移民排斥問題を考えるとき、安全保障化の議論はかなり参考になると思う。

安全保障の「セクター化」を踏まえた「安全保障化」(securitization)は、言語哲学者ジョン・オースティン(John Austin)の「言語行為論」(speech act theory)から着想を得た理論である。言語行為論の新しさは、発話に伴う行為、すなわち単なる陳述の中であってもそれに内包される意図された行為にも着目する必要性を主張したことにある(注)。

コペンハーゲン学派はこれに注目して、ある国・地域ごとに何が安全保障と認識されているかを発信することに重点を置き、その発話によって「何が安全保障上の脅威であるか」が定められてはじめて、安全を保障する行為が伴ってくるのではないかと考えたのである(その後の理論研究でも、発話そのものよりも行為のほうが重要とされている)。

 

安全保障化を発動する主体は「安全保障化アクター」と呼ばれ、たとえば政府、政策決定者、官僚、ロビイスト、利益団体などが想定される。その他にも、労働組合や大衆運動、あるいはEUのような超国家機構も安全保障化アクターとなりうる。この安全保障化アクターが、新たな「存立を脅かす脅威」(existential threat)を「発話」、つまり実際に口に出してその脅威を発信することで、安全保障化が始まる。

しかし、いくら重大な脅威となっていても、発話のみでは、単なる安全保障上の新たな脅威を提案、発信するだけの「安全保障動議」(securitizing move)としかならない。そこで重要となるのが「聴衆」(audience)による「受容」(acceptance)である。安全保障化アクターの発話を聴衆が「受容」してはじめて、その事象はその国・地域において新たな安全保障上の脅威となる。このプロセスが安全保障化である。

とくに重視されるのが聴衆の受容であり、逆に言えば、聴衆が新たな脅威の存在を認識して受容しなければ安全保障化は成立しないことになる。そして、ひとたび安全保障化が起こると、その脅威への緊急な対処が必要となれば、通常の政治的手続きの枠から逸脱した「特別措置」(extraordinary measures)が行われたとしても正当化される。なお、安全保障上の脅威が解消され、元の政治化あるいは非政治化まで平常に戻ることを「脱安全保障化」と呼ぶ。

 

記事の中にもあるように、よくある批判としては以下があって

とはいえ、コペンハーゲン学派の提唱したこの新しい安全保障理論も批判がないわけではない。メリー・カバレッロ=アンソニー(Mely Caballero-Anthony)、ラルフ・エマーズ(Ralf Emmers)、アミタフ・アチャリア(Amitav Acharya)らは以下の問題点を挙げている。

 

それは、なぜ安全保障化が起きるのかをコペンハーゲン学派は十分には説明していない、安全保障化が起こったと判定できる基準が示されていない、安全保障化の理論は「ヨーロッパ中心主義的」である、そして安全保障化が起こった後の政策への評価が十分ではないというものである。

まあ、それはそうなんだけど。「何が安全保障の脅威なのかについて、安全保障化アクターが発話し、聴衆が受容していく」というように、個々のアクターに分けた上で、プロセスを細かく分析していくのが大事だよねっていうのが、この理論の面白いところかなと思う。上の批判は本質的でなかなか乗り越えられない気もするけど、いろいろ日々のニュースを注意深く見るためにも役に立つ理論じゃないかなーと思ってる。発話の手段としてメディアは重要なので。もちろんトランプのTwitterも。

 

記事の中にもあったけど、新型コロナ関連の政治家の言動を見る上で、いろいろ参考になると思う。

武漢肺炎」とか言ってみたり、逆に米軍が持ち込んだとか言ってみたり。

Top U.S. diplomat speaks of 'Wuhan virus' despite China's protests | The Japan Times

The novel coronavirus is getting a new name from Secretary of State Mike Pompeo — the “Wuhan virus” — despite objections from China where the illness was first detected.

...

The World Health Organization, in guidelines issued in February aimed at governments and media, warned that terms such as “Wuhan virus” could stigmatize people of Chinese origin and also discourage people from getting tested.

“The official name for the disease was deliberately chosen to avoid stigmatization — the ‘co’ stands for Corona, ‘vi’ for virus and ‘d’ for disease; 19 is because the disease emerged in 2019,” it said.

 

新型ウイルスは米軍が武漢に持ち込んだ、中国報道官が主張 写真7枚 国際ニュース:AFPBB News

中国外務省の報道官が12日夜、新型コロナウイルスは米軍が中国に持ち込んだ可能性があるとツイッターTwitter)に投稿した。主張を裏付ける証拠は提示していない。

この米中のやり合いはかなり危ういと思う。貿易戦争よりも、もっと嫌な感じがする。

 

 

とにかく、安全保障化について、日本語のウェブ上には有用な記事なかったので、今回のシノドスの記事はたいへん勉強になった。

ウェーバー本人の説明がユーチューブにあるよ。

https://youtu.be/wQ07tWOzE_c

以下のリンクも詳しい。

Securitization - International Relations - Oxford Bibliographies

オランダの大学で勉強してるとき、コペンハーゲン学派の議論を読もうとして、初めは全然分からなくて四苦八苦したことを思い出した。今はちょびっと分かるようになってた。留学から帰ってきて、いろんな論文読まされて訓練されたのが効いてる。

立花隆のジャーナリズム論


asahi.com :徹底討論「ジャーナリズムの復興をめざして」 - 朝日新聞社シンポジウム

それで、そういうところで働く人たちは、基本的にどういう能力を持たなきゃいけないか、それを分けてみると、大体次ようになります。つまり、これが先ほどの「報道パワーの源泉」の内容とほぼ対応するんですが、もうちょっと違う表現で言うと、こういうものがジャーナリストの能力として必要なわけです。

 基本は、(1)取材力(対人関係形成力/信頼される人格)、(2)筆力(文章力より説得力/ナルホド/その通り)、(3)眼力(広く、深く、遠くをみる力/裏側を読む力)、(4)バランス感覚、というふうに分かれると思います。その取材力という時に、何よりも大切なのは、その取材対象の人間と対人関係をうまく形成できる能力、その取材相手から信頼される能力、そういう能力ですね。

 2番目の筆力というのは、一般的に名文を書く能力ではないんです。そうじゃなくて、むしろ説得力がある文章を書く能力で、読む人になるほどと思わせたり、そのとおりだと思わせる、そういう説得力があるものを書く力です。

 そういうものを書く前提として、3番目のこの眼力というのが必要でして、これは「広く、深く、遠くを見る力」とありますが、これはこの目の前の現象を見た時に、それをもうちょっと広い視野でとらえて、表面だけじゃなくて、もっと深いところをとらえて、さらに時間軸でもっと遠いところ、後ろのほうにも遠いところ、それから、前のほうにも遠いところを見る。そういうふうにものを見る眼力、プラス、この「裏側を読む力」が必要で、何かが表面に現れる場合、その裏側というものが必ずあるわけです。その裏側を読む力、これは「広く、深く、遠く」とは全く違う別の次元ですね。物理の用語で言えば位相的な違いで、その背景を見るという、そういう力が必要なわけです。

 こういう三つの力を兼ね備えて、さらに4番目のバランス感覚がある人が、初めてちゃんとしたジャーナリストになり得るわけです。