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映画の感想と勉強日記

安全保障化の説明、コロナウイルス


非伝統的安全保障とスウェーデンにおける「移民の安全保障化」 / 清水謙 / スウェーデン政治外交史・国際政治学 | SYNODOS -シノドス-

安全保障化、セキュリタイゼーションの分かりやすいまとまった説明。具体例としては、スウェーデンでの移民の安全保障化が分析されてる。移民排斥問題を考えるとき、安全保障化の議論はかなり参考になると思う。

安全保障の「セクター化」を踏まえた「安全保障化」(securitization)は、言語哲学者ジョン・オースティン(John Austin)の「言語行為論」(speech act theory)から着想を得た理論である。言語行為論の新しさは、発話に伴う行為、すなわち単なる陳述の中であってもそれに内包される意図された行為にも着目する必要性を主張したことにある(注)。

コペンハーゲン学派はこれに注目して、ある国・地域ごとに何が安全保障と認識されているかを発信することに重点を置き、その発話によって「何が安全保障上の脅威であるか」が定められてはじめて、安全を保障する行為が伴ってくるのではないかと考えたのである(その後の理論研究でも、発話そのものよりも行為のほうが重要とされている)。

 

安全保障化を発動する主体は「安全保障化アクター」と呼ばれ、たとえば政府、政策決定者、官僚、ロビイスト、利益団体などが想定される。その他にも、労働組合や大衆運動、あるいはEUのような超国家機構も安全保障化アクターとなりうる。この安全保障化アクターが、新たな「存立を脅かす脅威」(existential threat)を「発話」、つまり実際に口に出してその脅威を発信することで、安全保障化が始まる。

しかし、いくら重大な脅威となっていても、発話のみでは、単なる安全保障上の新たな脅威を提案、発信するだけの「安全保障動議」(securitizing move)としかならない。そこで重要となるのが「聴衆」(audience)による「受容」(acceptance)である。安全保障化アクターの発話を聴衆が「受容」してはじめて、その事象はその国・地域において新たな安全保障上の脅威となる。このプロセスが安全保障化である。

とくに重視されるのが聴衆の受容であり、逆に言えば、聴衆が新たな脅威の存在を認識して受容しなければ安全保障化は成立しないことになる。そして、ひとたび安全保障化が起こると、その脅威への緊急な対処が必要となれば、通常の政治的手続きの枠から逸脱した「特別措置」(extraordinary measures)が行われたとしても正当化される。なお、安全保障上の脅威が解消され、元の政治化あるいは非政治化まで平常に戻ることを「脱安全保障化」と呼ぶ。

 

記事の中にもあるように、よくある批判としては以下があって

とはいえ、コペンハーゲン学派の提唱したこの新しい安全保障理論も批判がないわけではない。メリー・カバレッロ=アンソニー(Mely Caballero-Anthony)、ラルフ・エマーズ(Ralf Emmers)、アミタフ・アチャリア(Amitav Acharya)らは以下の問題点を挙げている。

 

それは、なぜ安全保障化が起きるのかをコペンハーゲン学派は十分には説明していない、安全保障化が起こったと判定できる基準が示されていない、安全保障化の理論は「ヨーロッパ中心主義的」である、そして安全保障化が起こった後の政策への評価が十分ではないというものである。

まあ、それはそうなんだけど。「何が安全保障の脅威なのかについて、安全保障化アクターが発話し、聴衆が受容していく」というように、個々のアクターに分けた上で、プロセスを細かく分析していくのが大事だよねっていうのが、この理論の面白いところかなと思う。上の批判は本質的でなかなか乗り越えられない気もするけど、いろいろ日々のニュースを注意深く見るためにも役に立つ理論じゃないかなーと思ってる。発話の手段としてメディアは重要なので。もちろんトランプのTwitterも。

 

記事の中にもあったけど、新型コロナ関連の政治家の言動を見る上で、いろいろ参考になると思う。

武漢肺炎」とか言ってみたり、逆に米軍が持ち込んだとか言ってみたり。

Top U.S. diplomat speaks of 'Wuhan virus' despite China's protests | The Japan Times

The novel coronavirus is getting a new name from Secretary of State Mike Pompeo — the “Wuhan virus” — despite objections from China where the illness was first detected.

...

The World Health Organization, in guidelines issued in February aimed at governments and media, warned that terms such as “Wuhan virus” could stigmatize people of Chinese origin and also discourage people from getting tested.

“The official name for the disease was deliberately chosen to avoid stigmatization — the ‘co’ stands for Corona, ‘vi’ for virus and ‘d’ for disease; 19 is because the disease emerged in 2019,” it said.

 

新型ウイルスは米軍が武漢に持ち込んだ、中国報道官が主張 写真7枚 国際ニュース:AFPBB News

中国外務省の報道官が12日夜、新型コロナウイルスは米軍が中国に持ち込んだ可能性があるとツイッターTwitter)に投稿した。主張を裏付ける証拠は提示していない。

この米中のやり合いはかなり危ういと思う。貿易戦争よりも、もっと嫌な感じがする。

 

 

とにかく、安全保障化について、日本語のウェブ上には有用な記事なかったので、今回のシノドスの記事はたいへん勉強になった。

ウェーバー本人の説明がユーチューブにあるよ。

https://youtu.be/wQ07tWOzE_c

以下のリンクも詳しい。

Securitization - International Relations - Oxford Bibliographies

オランダの大学で勉強してるとき、コペンハーゲン学派の議論を読もうとして、初めは全然分からなくて四苦八苦したことを思い出した。今はちょびっと分かるようになってた。留学から帰ってきて、いろんな論文読まされて訓練されたのが効いてる。