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映画の感想と勉強日記

【メモ】MMTに関する日経「経済教室」記事

最近、経済政策の論争で「現代貨幣理論(MMT=Modern Monetary Theory)」の議論が聞こえるようになった。6月3日付けの日経新聞「経済教室」に関連する記事が載っていたのでメモ。

6月3日は東大教授の宮尾龍蔵氏。MMTの提唱者であるステファニー・ケルトン米ニューヨーク州立大教授が「日本はMMTを実践してきた」という指摘について「日銀は物価の安定を政策目標とし、その政策運営の独立性と透明性は日本銀行法により規定されている」と批判した上で、MMTについて解説。ポイントとしては「MMTは伝統的なケインズ経済学と多くの共通点があること」、「政府・中銀、財政均衡や物価安定を目指さないこと」など。以下、引用。

一方、MMTでは財政収支の均衡を目指さない政府と、物価安定を目指さず政府・財政に従属する中央銀行の組み合わせを想定する。政府は無規律・無制約的に財政赤字の拡大を続け、中央銀行は物価安定でなく、財政をサポートするための金融緩和と金利抑制が義務づけられる。

・・・MMTの世界では、中央銀行は枠組みとしての財政従属に取り組む責務があるため、それが実行可能となるように中央銀行法や財政法は改正される。インフレ率をコントロールする責務は、中央銀行ではなく政府と議会が担う。

ちなみに、ローレンス・サマーズ米ハーバード大教授はMMTを批判しているらしい。最近、山形訳でサマーズ「長期停滞論」を読んでMMTに似ているとか思ってたのだが。

景気の回復が感じられないのはなぜかー長期停滞論争

また、日経の記事では「MMTを巡る論争に意義があるとすれば、財政政策の選択肢を再考するきっかけになったことだ」と指摘され、「主流派の学者の間でも、財政赤字や公的債務のメリットが見直されるようになった」として、オリビエ・ブランシャール前米国経済学会長の講演があげられている。

その講演そのものではないが、ブランシャールとサマーズの記事の翻訳は以下で読める。

オリビエ・ブランシャール&ローレンス・サマーズ「経済学の進化か革命か」 — 経済学101

 ほか、ネットにあるものではシノドスの記事が読める。

消費税は引き上げられるか?――現代金融理論と「反緊縮」の経済学 / 中里透 / マクロ経済学・財政運営 | SYNODOS -シノドス-

あと、ほとんどの経済学者はどうやらかなり批判的らしい。先の日経記事の(上)では相当批判的な論考が載っていた。

現代貨幣理論MMTを問う(上) 目新しい主張、軒並み不正確 (写真=ロイター) :日本経済新聞

ウィレム・ブイター(シティグループ特別経済顧問/キャサリン・マン シティグループチーフエコノミスト)という方の論考。

MMTの基本的な前提は独自の不換通貨を持ち、公的債務(国債)の大半が自国通貨建てで、かつ為替が変動相場制をとる主権国家は決して破綻しないというものだ。そうした国は公的部門のすべての赤字を通貨増発で手当て(財政ファイナンス)できるため、公的債務がどんなに膨張しても心配には及ばないという。

MMTによれば、財政支出を停止しなければならないのはインフレが行き過ぎた場合だけで、現時点で低インフレのほとんどの先進国は財政支出を控える必要はない。日本はまさにこの理論が当てはまるという。

批判として、

だがMMTには、金融化(金融の相対的重要性の拡大)が著しい現代のグローバル経済下では成り立たない主張が含まれている。

・・・

国家はいつでも通貨を増発して債務返済に充当できるから、自国通貨建ての国債のデフォルト(返済不履行)はあり得ないという主張は、財政ファイナンスハイパーインフレを誘発すれば、デフォルト以上に多大なコストが生じかねないことを無視している。 

・・・

期限付き商品券を国民に配布するといったヘリコプターマネー政策も、今日の日本になら効果があるかもしれない。だが米国と英国は流動性のわなから脱しているし、ユーロ圏、いや日本でさえ、どこかの時点で金利がELBを上回るだろう。そうなったとき、巨額の財政ファイナンスが引き起こすインフレは日本にとって深刻な問題となろう。

・・・

流動性のわなに陥った状況であれば、通貨増発による財政出動景気変動抑制効果の点から望ましい。だがひとたび流動性のわなを脱したら、インフレを誘発せず通貨発行益を最大化することに細心の注意を払わなければならない。

個人的には、アメリカ大統領選に関心がある。民主党代表を決める選挙がそろそろ本格化してきており、サンダースやオカシオコルテスの主張の意味が知りたいと思い、今回は少し調べてみた。