この映画はちょうど去年の今頃に見て以来はまってしまい、結局5回は見た。
吉田大八監督、原作の浅井リョウのコメントが入ったバージョンも見た。
この映画のどこに引き付けられたのか。
1回目に見た時は、ものすごいカタルシスがあった。最後のシーン(「食い殺せ!」)でものすごく興奮して、そのまま2回目を見た。
2回目くらいまでは、映画部の前田君(神木隆之介)に感情移入してたんだと思う。
今回は前田君を中心に『桐島』を考えたい。
(人物相関図。便利。)
ちなみにこの前田君のメガネは、
「ゾンビ映画の神様」ジョージ・A・ロメロへのオマージュなんだとか。コメンタリーで吉田大八監督が言ってました。(「前田君はこのメガネを、『ロメロに似てるなぁ』なんて選んだんだろうなあ。」)
では、重要なシーンについて考えたいと思います。
映画館のシーン
前田君が映画を見に行くシーンがある。かすみ(橋本愛)と遭遇するシーン。かすみは前田君の中学からの同級生。中学の時は少し喋ったりしたけれど、高校に上がってからは話すことはほとんどない。かすみは、前田君が楽しそうに映画の話をするのを好きなのかもしれない。「どんな映画を撮ってるの?」なんて聞いてくれるからだ。そんなかすみと映画館で偶然出くわす。前田君はコーラをおごってあげる。
僕は映画部の前田君の気持ちになろうと、この映画を観た。
それが、『鉄男』である。
(有名なシーン。お股からそびえるドリル)
『鉄男』は1989年に作られた映画。監督は塚本晋也。ものすごいカルト映画で、タランティーノも大好きだとか。
さて、どんな映画かというと…
主人公のサラリーマン(田口トモロヲ)は自分のほっぺたから金属片が出ているのに気付く。で、どんどん身体中が鉄になっていく…以上。
ストーリーは特にない(失礼!)映画ですが、何が凄いかというとその映像テクニックでしょう。石井聰亙(岳龍)監督の『狂い咲きサンダーロード』の疾走感だけ!という映画です。67分間、映像テクニックでとにかく突っ走る。
正直な感想は「変な映画やな…」といったところでしたが、個人的にはけっこう楽しめた映画だった。
で、話は戻ります。思い出してほしい。
ふたりが見ていたのは、この『鉄男』なのだ。日曜日の昼間から、こんなカルト映画を見てるのはかなりの映画マニアだろう。
もし、僕が日曜日の昼間に『鉄男』を見に行って、同級生の橋本愛ちゃんに遭遇したらどうなるか。もう一瞬で勘違いしてしまう。
心の声…「だって、『鉄男』だぜ? この映画見に来るのは、ちょっと普通じゃないよ!ああそうか。かすみちゃんって、ちょっと不思議な感じというか、ダークな感じがしてた。そういうことだったんだ。じゃあ、タランティーノの話とかしてみようかな?僕も、この映画はタランティーノが薦めてたから見に来たんだし…」
これが、
前田「ねえ、タランティーノで何が好き?」
かすみ「う~ん、人がいっぱい死ぬやつ。」
に繋がるのである。
おそらくだが、かすみは『キルビル』くらいしか見ていないのだと思う。たぶん、『パルプフィクション』でもなければ、『レザボア・ドッグス』でもない。
しかも、『キルビル』だから、そこまで面白くないw
かすみ「なあんだ、前田君の好きそうな映画だけど、あんまりおもしろくないなぁ」
って、なったんだと思う。たぶん。
長々と書いてきたが、このシーンで見ていた映画が『鉄男』であるのが重要だと言いたい。これが、『アナと雪の女王』であれば、遭遇しても何の不思議もない。(けど前田君は見に行かなそうだな…)ありえるからだ。
この場面には、普通の女子が見に来ない、見に来るはずのない映画がふさわしいのだ。
注意! ↓ここからはネタバレになります↓
かすみが『鉄男』を見に来たのには、実は理由がある。
この日、かすみは彼氏(くそパーマ野郎!)とケンカした。はっきりとセリフにはないが、①デート行きの服装をしていること、②微妙な表情でケータイを触っていることから推測できる(これはコメンタリーで、吉田監督が言ってた。)
だから、かすみは彼氏ケンカをしてしまった後、適当に映画館に入って見てしまったのが『鉄男』なのである。
つまり、「塚本晋也」特集上映を心待ちにして、休みの日に見に来た前田君とは全く違うのだ。
・・・以上です。かなり長くなってしまった…
タイトルを”『桐島、部活やめるってよ』①”にしましたが、不定期です。
また新たな発見があったら、思い出したように書きます。
<追記>
このシーン、前田君はかすみに映画の話をしまくるのだが、見ていて本当に心が苦しくなる。会話はあまり弾んでいないし、前田君はかすみが知らない映画の話をしまくるので、かすみは申し訳なさそうにしている。(実際に謝っていたかな?)
本当に、身につまされるシーンでした。気を付けよう。