Hooney Got His Pen

映画の感想と勉強日記

妻は告白する

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初めに、本作で描かれる事件の概要を確認する。そして、若尾文子演じる主人公・彩子における身体的関係がもつ意味について考える。

 『妻は告白する』は1961年の大映映画で、監督は増村保造。映画は先ず、法廷における裁判のシーンから始まる。若尾文子演じる主人公・滝川彩子(以下、彩子)は、夫である大学教授・滝川亮吉(以下、滝川教授)と、製薬会社社員・幸田修(以下、幸田)と北穂高滝谷で登山をしていた。北穂高滝谷は難所中の難所であったため、不慮の事故が起こった。つまり、岩壁から足を滑らせた滝川教授が宙吊りとなったのだ。そして、彩子も滝川教授に引っ張られる形で宙吊りとなり、岩壁で足場を確保できているのは幸田のみという状況となった。幸田、彩子、滝川教授の順で「ザイロ」と呼ばれる命綱を互いに装着している。一番下で宙吊りとなっている滝川教授が岩壁に飛び移らなければ、3人とも崖の下に転落してしまうかもしれない。また、足場を確保している幸田が2人の体重を支え切れるかどうかも時間の問題である。そのような緊迫した状況の中で、いわば真ん中に宙吊りとなった彩子はザイロを切断し、滝川教授は崖を転落していき死亡した。以上のような事件をめぐって彩子は裁判の被告となり、滝川教授死亡に関して過失性を問われている。


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 映画は法廷闘争を描きながら、彩子の回想という形で過去が語られていく。自殺を考えるほど苦学生だった彩子は、苦しい生活に耐えかねて成り行きで滝川教授と結婚してしまう。結婚後の彩子は子供を産むことも許されない。滝川教授は身体的な関係を求めるばかりで精神的な交流はなく、彩子はただただ抑圧されるばかりであった。そんな中、製薬会社の社員である幸田と出会い、彩子は密かに思いを寄せるようになる。ふたりの関係に気付いた滝川教授は、意地悪をしようと、登山の素人にとっては難所である北穂高滝谷にふたりを誘う。その際に起きた事件は上に書いたとおりである。

 ここで、彩子と滝川教授、幸田との関係のあり方を確認する。先に書いたように、彩子と滝川教授は身体的な関係は持ってはいるが、恋愛の当初から心を通わせている様子は描かれない。むしろ、彩子は身体関係を持つことを嫌がっているようにも見え、滝川教授は半ば強引に彩子を押し倒す。一方、彩子と幸田は終盤まで、身体的な関係を持つことはない。後半になって一夜を共にしたことが描かれるが、その一度だけである。それまでには、泣き崩れる彩子を幸田が優しく抱きかかえるというシーンがあるのみである。

以上のように、彩子=滝川教授、彩子=幸田の関係は身体関係の有無によって対称的に描かれる。しかも、身体関係の意味づけも両方でまったく異なる。彩子=滝川教授の関係では、彩子は虚ろな目で斜め上を見つめるばかりであるし、事後のシーンは描かれない。一方、彩子=幸田の関係では、事に及ぶ前も描かれつつ、彩子が微笑みながら満足げに幸田と語らう事後のシーンも丁寧に描かれていた。


若尾文子映画祭 青春 にて観賞】

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