映画『バービー』を見ました。期待していきましたが、期待以上に素晴らしかった! 監督がグレタ・ガーウィグ、脚本はノア・バームバックとの共同脚本ということで、これは絶対、単なるお人形の映画じゃないってことは分かりながら見ましたが、想像以上でした。
まず、冒頭から爆笑させてくれる。ネタバレになるから言いませんが、あの名作映画のわかり易すぎるパロディー。この冒頭からやられてしまった。最高や!
マーゴット・ロビーのバービー役も、見事なハマり役でした。シックスパックをこれ見よがしに見せつけるライアン・ゴズリングのケン役はめちゃくちゃ笑える。こんな豪華なキャストな上、バービーランドの美術もめっちゃお金かかってて、すごい。見てるだけで目が楽しい。ストーリーは、何もかもが完璧なバービーランドから、バービーは現実世界に行くことになり…というもの。バービーが現実世界に行って驚くのは、そのパトリアーキー(家父長制)です。そのまま、「パトリアーキー」と言ってます。ケンも一緒に現実世界に来るんですが、「男が世界を支配してる!最高だ!」とノリノリになってるのも笑えるような笑えないような描写が盛りだくさん。バカそうな役をさせたらこんなにうまいんですね、ライアン・ゴズリング。
何より嬉しいのが、脇を固めるコメディ俳優のみなさんです。アメリカのコメディ映画ではおなじみ、マイケル・セラは「ヘナチョコだけどいい奴」といういつもの役というか、本人そのままで出てきます。バービーの会社のトップは、なんと、ウィル・フェレル! ウィル・フェレルは『俺たちニュースキャスター』でも見せたように、パトリアーキー演技がめちゃくちゃうまい(どんな俳優やねん)。笑えるし笑えない絶妙なところをついてきます。
主題はパトリアーキーとフェミニズムですが、最終的には「生きるとはなにか?」という普遍的な問題にたどり着いて、これがなかなか考えさせるし、なんなら泣かせる。マーゴット・ロビーは難しい役柄を本当に見事に演じきっていた。彼女の幅の広さはすごいですね。
そして、改めて、グレタ・ガーウィグは天才ですね。これまでのフィルモグラフィーでは中小規模の作品が多かったですが、見事にビッグバジェットの作品をモノにしたと思います。まだ39歳の彼女の今後の活躍が楽しみでなりません。これからもどんどん面白い映画を見せてくれるんだろうな。ありがたすぎる。この作品は彼女のフィルモグラフィーの中でも重要な、特別なものになると思う。脚本のノア・バームバックにとってもそう。現代の映画作家の最良の作品を映画館で見る。こんな贅沢は他にあるだろうか。ということで、『バービー』、めっちゃオススメです!日本では8/11公開!
あと、すごく複雑な構造を持った映画でした。正直、難しかったです。いろんなテーマが何重にも入り組んでて、考察しがいがあるし、批評家受けする映画だとも思いました。アカデミー賞とかいろんな賞にも絡んでくると思う。最近の米映画界で問題の多様性問題にもすごくクールに回答しているし、その辺が凄いなと唸らされた。なにより、ケンの表象は「フェミニズム時代の男性性」というすごく難しい問題に触れていると思った。男性はトランプ支持者の振る舞い(プラウドボーイズ)をするしかないのか、それとも…という。現代アメリカと現代社会を鋭く映し出す映画でしたね。鋭い社会批評性(ソーシャルコメンタリー)を持った映画です。今後、何度か見ていく映画になると思う。ここ数年でも一番の重要作になるんじゃないかな。大げさでなく。そう思います。