Hooney Got His Pen

映画の感想と勉強日記

学振のコツ(2023年度DC1内定者)

2023年度DC1に採用されました。社会学分野です。

去年の今頃はちょうど学振の書類作りに忙しかった。その経験を書いてみる。N=1だけど、去年の今頃はどんな情報でもありがたかったので。

マインドセット

まずは、マインドセットの問題。

「日本は博士課程への支援が少ない」「若手研究者への投資をもっとしてほしい」とか、そういう、「そもそも論」は一度全部捨てたほうがいいです。

これらは一見もっともだし、僕もそう思う。採択率2割はちょっと厳しすぎるんじゃないかとかはちょっと思うし、もっと広く支援もしてほしい。でも、そういう声があったから、2年くらい前から大学ごとに「次世代研究者挑戦的研究プログラム事業」が始まって、学振並みの支援が受けられるようになっている。国もなんだかんだ言いながら、それなりのことはやっているのである。

だから、「日本は~」的な批判は一度忘れて、まずは冷静になって、自分の大学のプログラムを調べてみてほしい。こちらも必ず狙うようにして、頭に置く。そのうえで、学振の申請書を書くことをおススメします。

最初に読む本

まずは、この本を読んでほしい。

ほとんどの人は「学振って、そもそも何?」と聞かれても説明できないと思う。正式名称は、独立行政法人日本学術振興会。「独立行政法人」と言われても知らない人が多いだろう。そもそも、なんで博士課程の学生にこの独立行政法人はお金を出すのだろうか。これらは初歩的だが本質的でもあるので、ある程度ちゃんと説明できないといけないと思う。

この本を読んで、制度の概要、全体像をまずはつかんでほしい。

そのうえで、ここに書かれている学振申請書の書き方はひとまず頭に入れてほしい。

というのも、この本くらいは、応募する人であればみんな読んでいるのである。まずはそこのスタート地点に立つこと。この本はとりあえず2022年に応募する人向けだが、たぶん3月後半ごろに新しい版が出ると思う。

まあ、本の内容の8割は同じだと思うので、別にこれを読んでもそんなに問題はないと思う。まずは、ここから始めましょう。

過去の申請書集め

次に、過去に学振に申請した人々の申請書をとにかく集めます。中にはネット上で公開してくれている親切な人もいるので、とにかくググってみて。あと、ツイッター上で公開してくれている人もいるので、サーチしてみてほしい。

ツイッターはけっこう学振のことをつぶやいている人がいたりするので、馬鹿にできない。これらの情報はフル活用してほしい。

身の回りで、学振に応募した先輩を探し出しましょう。僕の場合は5~6人に申請書をもらいました。ポイントは、落ちた年の申請書ももらうこと。これが意外と重要で、その人の受かった年のものと見比べて、落ちた年は何がだめで、受かった年は何が良いかを比較できる。

僕は、ある人(Aさん)から申請書を3バージョンくらいもらった。Aさんは最後の年(博士課程3年目)に受かった人だ。まず、Aさんの申請書を3バージョン見比べる。その際、年は隠して見比べて、受かったか落ちたかわからないようにする。

それらをじっくり見比べてみて、受かった年と落ちた年を推測してみる。点数をつけてもいい。何がいいか、悪いか、なるべく言語化する。そして答え合わせをする。こうやって、審査者の気持ちになって、だれかの申請書を評価するのはいいトレーニングになる。可能ならぜひやってみてほしい。

初稿を書く、なるべく早く

僕は4月20日に初稿を書き終えました。1~2か月かかってしまった。最初の1か月で、自分のこれまでの業績をひたすらリストアップしていった。

業績は自分が忘れているだけで、意外とあるもの。小さな研究会の報告だとしても、かならず入れるようにする。どんなに小さな文章でもいい、それらも絶対に業績としてリストアップする。ブログ記事なんかはもちろんダメだけど。

あと、教暦とか職務暦も必ず全部リストアップする。

僕の場合、大学のTAとかの履歴はすべて、大学側が持っていた。大学の学振担当者からこのリストを送ってもらい、すべて書くことができた。自分ではすっかり忘れていたものも多くて、意外とあるものだと感心した。だから、これもなるべく早く、大学側に問い合わせてみてほしい。

僕は3年間、会社で働いた。

その時の経験はなるべく多く、盛り込んだ。研究や職歴の欄に書くだけではない。「研究に関する自身の強み」にかなり多く盛り込んだ。自分の職歴がなぜ、どのように、今、研究者を目指す自分の強みにつながっているのか。僕は新聞記者をしていたので、これは割合、書きやすかったと思う。インタビュー調査の経験や、「歴史的な一次資料を用いて報道を行った」という形で自身の強みとしてアピールした。

とにかく、初稿は、なるべく、締め切りの1か月前には書き上げたい。

大学によっては1次締切と2次締切が設定されているところがあると思う。この情報は最初に確認してほしい。

そして、学内の担当者の方には一度、顔を合わせに挨拶しにいったほうがいい。これから何度もお世話になる人だから。メールだけの関係でもいいが、一度くらいは挨拶に行った方がいいとおもう。しかも、大学によっては、この担当者の方が間違いチェックなどをしてくれることもある。だから、とてもありがたい人なので、一度、「よろしくお願いします」と言いにいったほうがいい。

目標は、「2次締切の1か月前に初稿完成」にすればよい。そうすれば、1次締切までも時間はあるし、推敲もできるだろう。

それと、これもちょっとしたポイントなのだが、分からないことがあるときは、学内の担当者に聞いてもいいし、日本学術振興会に直接電話して聞いてもいいです。電話番号はホームページに載ってます。

www.jsps.go.jp

僕は3回くらい、学振に電話して聞きました。とても親身に、丁寧に教えてくれます。付け加えておくと、学振の人は味方なんです。「応募してくださりありがとうございます」とかも言ってくれます。学内の担当者もそうですが、学振の人も味方につけましょう。「ああ、みんなに支えられ、応援されているのだ」と実感しながら、申請書を書いてください。

でも、もちろん、募集要項、Q&Aは熟読したうえで、それでもわからない場合だけ電話してください。僕は会社勤務を経ての応募でちょっとイレギュラーなこともあり、分からないことがあったのです。まあ普通に(?)修士からそのまま上がるのであれば、そんなに電話してまで聞くこともないかもしれない。まずは学内の担当者さんに聞くのを優先しましょう。

初稿の内容を発表する

とりあえず初稿は完成した、とします。

次に、この初稿の研究計画を用いて、発表を行ってほしい。自分の所属するゼミや研究会があると思うので、そこで発表してみてほしい。そういう場所がなければ、自分で作るしかない。数人を集めて自分の発表を聞いてもらう会をすればよい。相手は研究に明るい人じゃなくても別によくて、普通の友達とかでもいい。大学に行ったことがある人であれば、ある程度、だれでもいいと思う。もちろん研究に明るい人が望ましいけども。

とにかく、発表をすれば、いろんなコメントをもらうだろう。

僕の場合、中国人留学生の女性がくれたコメントがとても役に立った。彼女は日本語が非常に堪能で、文章中の漢字の間違いを指摘してくれた。そして何より、彼女からもらったコメントは素朴というのか、シンプルで本質をつくものだった。「これはどういう意味ですか」というところは自分の説明が足らないところだったし、「この概念が分かりません」と言われた部分は確かに分かりにくかった。

つまり、日本語の上手な留学生の方でも理解ができるくらいの日本語で、説明してあげる必要があるのだ。それも、文章だけで。まあ、図も使えるけどね。そうそう、図は必ず使ってくださいね。

あるいは、「高校生から大学初年次くらいの学生が読んで理解可能な文章」と言い換えてもいいかもしれない。それくらい分かりやすい文章で書く必要がある。

そもそもの文章力をあげる

ここへきて、やっぱり文章力が問題になってきました。論理的、整合的、かつ分かりやすい文章が申請書には求められます。

これが、難しい。

「そんな分かりやすい文章書けないよ」って人も多いと思う。

なので、そもそもの文章力をアップさせるための本をいくつか紹介します。

僕が大学生~新聞記者時代に愛読した本をいくつか紹介しますね。

 

この本はとてもいいです。そもそも読みやすいし。パラグラフライティングの考え方の基本が身に付きます。紹介する中ではこれが一番学術的かも。

 

 

次はこれ。文化系ウェブメディア「ナタリー」の唐木元さんの本です。どうやったら読みやすい文章が書けるか、かなり実践的に、すぐに応用可能な形で書かれています。本当にすぐに使えるのでオススメ。

 

これは朝日新聞の名物記者、近藤康太郎さんの本。めっちゃ面白く読めます。やはり名物記者なだけあり、いろんな工夫、技巧があって、どれも勉強になります。

 

これも朝日新聞の記者、外岡秀俊さんの本。非常に基本的なところから、文章のポイントを教えてくれるので勉強になります。

ここで紹介した本はどれも本当に読みやすい。読みやすい文章の書き方を教えてくれる本だから当たり前なのかもしれないが、それはなかなかできることではない。とにかく、これらを読んで、一度、自分の文章の書き方を見直してほしい。

人に見せてコメントをもらう

発表の段階でコメントはもらえていると思いますが、それ以外にもとにかく人に見せてコメントをもらってください。僕は5人くらいに見てもらいました。みなさん丁寧にコメントをくださって、そのどれもが役に立った。

でも、ちゃんと、取捨選択するのも重要。全部に対応していたら、文章がめちゃくちゃになるので。ちゃんと自分の核を持ちながら、コメントに対応するようにしてください。

学振採用者に見てもらう

これが一番、重要です。僕は友人で、学振DC1に採択された人がいて、その方にかなりみっちり見てもらいました。3~4往復はしたんじゃないかな。

その方から言われたのは、「一読しての迫力」でした。

審査員の方々は申請書1件を見るのに、そんなに時間は取れません。だから、一読して内容を理解してもらう必要がある。採択されるには、申請書からにじみ出る迫力によって読む人を圧倒する必要がある。

たしかに、採択される申請書はなにか、言いようのない迫力があるんです。

この「迫力」はうまく言語化できない部分でもあるのですが、やはりなるべく多くの申請書を集めて、その審美眼を自分で鍛えるしかありません。審査者の気持ちになって読み直して、その迫力を感じられるようになること。これが意外と大切です。

だいたい、こんなところでしょうか。

あんまり、研究計画の書き方とかは書けなかった。それはまあいろんな本もあるし、指導教員とか先輩とかに聞いてみてください(丸投げ)。まずはこの募集要項が発表された時期くらいの人に伝えたいことを書いてみた。

とにかく初稿を早く書く。それを繰り返しブラッシュアップする。これしかない。

僕は第20稿くらいまで作りました。やれることはやった。そうやって自分で納得できることは大事なことだと思う。

みなさんのご健闘を願っています。

 

追記

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安田峰俊さんの『ユニバーサル文章術』もオススメです。『パラグラフライティング』を読んだあとはこれかな。

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こちらのノートにある「ユニバーサル日本語」を習得したら、かなりスムーズに申請書を書けると思います。