Hooney Got His Pen

映画の感想と勉強日記

1987、ある闘いの真実

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まず、映画としての完成度がハンパないです。社会派エンタメとして面白く見れる、という大前提を大幅にクリアしてきます。あらゆる複雑な感情が凝縮されている、そんな映画でした。何と言ってもテクニカルで、撮影や美術、そして脚本が巧みです。80年代のカメラを実際に使ったり、手持ちカメラを使って臨場感を出しています。

脚本については以下で少し触れます。


韓国の民主化を描いた映画と聞くと、最近では『タクシー運転手』が記憶に新しいですが、あちらは1980年の光州事件、今回の映画はまさに民主化の年である1987年が舞台。民主化運動が最も苛烈になっている年なので、市民と体制側のぶつかり合いも熾烈です。


そして決定的な事件が起きます。ソウル大の学生が警察の取り調べの最中で拷問によって死んでしまう事件が起こります。「民主化運動の闘士」といったような学生ではなく、普通の学生が拷問死したということで社会的なショックが大きい事件でした。

 


本作はまず、この事件が公になっていく展開を丁寧に描いてみせます。しかも強調されるのは、「それぞれの持ち場で職業的良心を発揮した人々」です。特別な正義感を元から持っていたというタイプではなく、上=体制側の無茶な命令に対して「流石にちょっと無理じゃないですか?」という素朴な感覚をその都度発揮した、そういう人々です。

 


安全企画部という、「共産主義勢力(アカ、と呼ばれます)の逮捕に並々ならぬ情熱を注いでいる機関がありました。もちろん、そこでいう「アカ」とは恣意的なレッテル貼りで、金大中のような野党政治家も含まれます。

 


安全企画部は、ソウル大の学生をまさに拷問によって死に至らしめました。そして「それまでのように」隠蔽しようとします。解剖は行わず、すぐに火葬しようとするのです。

 


しかし、当時の韓国では火葬は珍しく、土葬が一般的でした。しかも、家族にも会わせないで火葬するというのは、「普通に考えておかしい」と署長は考えます。火葬の許可の権限は署長が持っているので、火葬は結局行われませんでした。

 


その後解剖は行われますが、公式発表は心臓発作とされました。どう考えてもおかしいわけで、新聞記者達が「報道指針」(政府からの報道への介入)を無視しながら追求していきます。その真実が明かされていく過程が前半で、サスペンスとして描かれています。

 


後半は打って変わって、女子大生のヨニ(キンテリ)とその家族がフォーカスされます。パクチャヌク監督の映画『お嬢さん』で圧巻の演技を見せたキンテリがヨニを演じています。前半からずっと重苦しい雰囲気で張り詰めているので、何とも可愛らしいヨニが出てきてからのシーンはホッとします。

 


これはやはり脚本が巧みです。観客が話の展開にうまく乗っていきやすいストーリーテリングだと言えます。ここからクライマックスに向けて、ヨニを中心に展開していきます。

 


クライマックスの展開には涙を堪えきれず、ちょっと恥ずかしいくらい泣いてしまいした。それと、何と言っても巧みなのが小道具の使い方!すごくうまいです。

 


個人的には、『サニー 永遠の仲間たち』を見たところだったので、あの映画との関連で本作を見ていました。あの映画は『サニー」という女の子グループが音楽やファッション、恋愛に夢中になる様子をコメディとして描いたものでした。ちなみに、本作でもヨニはファッションや音楽に夢中ですし、大学ではマンガサークルに入るというお話になっています。ただ、『サニー』が新しかったのは、今回の『1987』が描いたような「男中心の表の歴史=民主化闘争」の対比として、「裏の歴史=女の子たちのサブカルチャー」を描いたからだったんですね。そういう時代背景があったからこその「サニー」だった。それが今回はっきり分かりました。僕の中で『サニー』が完結しました。