Hooney Got His Pen

映画の感想と勉強日記

立花隆『東大生はバカになったか』

 

東大生はバカになったか (文春文庫)

東大生はバカになったか (文春文庫)

 

 

文部省の「ゆとり教育」が生んだ高等教育の崩壊状況を徹底検証。その根本原因たる日本の教育制度の欠陥を、文部省の歴史、東大の歴史に求めながら、日本を知的亡国の淵からいかにして救うか、その処方箋を探る。さらに現代における教養とは何か、それはどのように獲得すればいいのかを論じて、世間に衝撃を与えた問題の書。

目次
知的亡国論
文部省が世界最低にした日本の大学―私の東大論1
東大法学部卒は教養がない―私の東大論2
東大法学部は「湯呑み」を量産している―私の東大論3
東大生諸君、これが教養である―私の東大論4
立花臨時講師が見た東大生
私の東大初講義
東大生はバカになったか
現代の教養―エピステーメーとテクネー

古本屋でたまたま見つけたが、これがなかなか面白い。文部省(当時)の高等教育政策批判などは今でもそのまま通用するし、むしろ今のことを言ってるのかと思うほど。あと、立花隆が教養論を展開するなかで、東大在学中に同級生たちに持った不満などがところどころ出てくるのが笑える。

私の学生時代だと、やたらにマージャンばかりしてる連中が多かった。法学部生でも、司法試験志望などのガリ勉組は図書館に入りびたっていたから、そっちの連中の生態もよく知っているのだが、その連中は静かに何時間も勉強をつづけ、たまに食堂に食事にきても大騒ぎするようなことは全くないのに、ナミの遊び連中は、なぜか明朗闊達なスポーツマンタイプが多く、知性のかけらも見えないようなバカ話、またテツマンをやってしまっただの、女子大生と合ハイしてひっかけただなといった話を大声でえんえんと繰り広げるのである。こちらは、いまゼミで読まされてきたプラトンウィトゲンシュタインに知的に刺激されて、むきになって議論をしたりしているところに、そういう大声のバカ話を聞かされるのだから、たまらない。「法学部ってほんとにバカが多いな。いずれああいう連中が、官僚になったり、一流企業の社長になったりするんだぜ。たまらん世の中だよな」というのが、当時私の仲間うちでよく交わされた会話である。東大法学部生のマジョリティは教養らしい教養がないというのは、そのころから変わらない私の信念である。

以上、155ページから引用。かなり辛辣だが、流れるような文章で当時の呪詛を語っており思わず笑ってしまう。

 

自分の大学時代を振り返った箇所(「自分が自分に与える教育」)もなかなかいい

  いまふり返ってみて、大学の授業で得たよりも、はるかに多くのものを自己学習によって得ている。

  それなら大学は必要なかったかというと、そうではない。大学に行かなかったら、そもそも自己学習のきっかけとなる知的刺激が十分に得られなかっただろう。

  大学というのは、知的刺激に満ち満ちたところである。授業からも多くの刺激を受けたが、いま思い返すと、なんといっても友人ら先輩から受けた刺激が大きい。「お前、あれを読んだか」「これを読んだか」「あれを知っているか」「これを知っているか」、友人先輩のそういう一言一言が刺激になって本を読みまくった。

とにかく、ある程度の本を読まなければ人の話にもついていけないというのとで、基礎文献を読みはじめる。すると今度は、その本に参考文献として紹介されている本も読まなければということで、さらに手を広げて読む。

以上、211-212ページから引用。立花隆はこうやって勉強してきたんだなと。

以下は、現役の東大生たちと立花隆が話すなかで教養教育について語る部分(245ページ)。

スタンダードを身につけることが教養ではなくて、どんな世界であれ、スタンダードではないものが、世の中にはこんなにも沢山あって、そのそれぞれが自分なりのレゾン・デートル(存在理由)を主張しあって、角つきあってるのだということを知ることが大事なんです。そういうことを知識として知ることが大事なのではなくて、そういう多様なものに自分がぶつかって、触発されることが大事なんです。そういうぶつかり合いによって、人間はカルチベイトされていくんです。その最大の効用は、偏狭な精神から逃れることができるということです。教養のアンチテーゼは偏狭な精神です。人間は多様性を学び多様な価値観を知ることによってのみ、偏狭な精神から逃れることができる。だから、教養教育で大事なのは、講壇講義じゃなくて、むしろ一定の同じような世代の人間がいて、いろんな人間がいて、それがある刺激を受けたときにみんなちがう反応を示して、ちがう意見を持ち、それをぶつけあってガチャガチャ喋り合う、その中で自然に身につくというかカルチベイトされるものが教養なんです。

煽りタイトルの本だけど、かなり勉強になるし面白い本だった。立花隆文藝春秋に3年間勤めて辞めた話に関連して、ある会社員からの「会社にいながらどうやって勉強続けますか?」という質問に対し「実質的に無理」的な回答してる部分にも笑った。立花隆ですら会社にいながら本を読み続けるのは時間がなくて無理だった、買い続けて本がたまっていくだけで読めない人生は嫌だとなって会社辞めたらしい。