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映画の感想と勉強日記

【メモ】Brexit, イギリス社会の変化

朝日新聞オピニオン欄に掲載された、英社会学者のインタビューが興味深かったのでメモ。

(インタビュー)迷走の英国、どこへ 英リーズ大学教授、エイドリアン・ファベルさん:朝日新聞デジタル

社会学者で欧州社会論の第一人者であるエイドリアン・ファベルへのインタビュー。話題は多岐にわたっているけど、特に重要だと思った点を以下に列挙します。太字部分は僕が付けました。

労働党、特に「ニューレイバー」の下での多文化主義からブレグジット

「英国では2000年代、ブレア労働党政権の下で、多文化主義に向けて社会が動き出すべきだ、とする意識が強まりました。『多民族国家』こそが英国の将来像だと位置づけられたのです。当時の進歩的知識人たちは、英国がもはや固有のアイデンティティーを有する国家というより、外部の個性も受け入れて共存する米国的な存在になるべきだと考えました

「それはある意味で当然です。英国は、日本のように強固な特徴を持つ島国である一方、『太陽が沈まない』といわれた旧植民地帝国でもあったからです。帝国内各地から渡ってきた多数の非白人が英社会の一部を構成するようになっていた。英国は、実際には『イングランド伝統文化を抱く白人社会』などではなかったのです」

英国のEU離脱はつまり、このような状況に対する反動でした。確かに、繁栄の恩恵が国内に均等に割り振られたわけではありません。恩恵を受けなかった地域では排外主義が高まりました」

信じがたいのは、あれほど評価してきた多文化主義を、今や誰も口にしなくなったことです。それどころか、イングランド白人ナショナリズムの台頭が懸念されるほどになってしまった。イングランドの地方都市にいくと、英国旗ユニオンジャックではなく、イングランドの旗セントジョージ・クロスが教会の塔にはためいています。この旗は、黒人やアジア系、ポーランド系を含まない英白人社会の象徴なのです」

国民投票、メイ首相の政策について

「52%がEU離脱を、48%が残留を求めました。このような結果が出たら、双方の立場を調整するのが当然です。しかし、国民投票の経験が浅い英国は、愚かにも投票結果をもって議論の打ち止めだと考えてしまいました

「メイ首相は国民投票によって表明された52%の意見に『最高主権』を見いだし、固執してきました。英国が培ってきた議会制度でもなく、現実的な国内統治でもなく、国民投票による民意だけを重視する。これは危険な発想です

グローバル化に取り残された労働者」という見方は誤り?

「『ロンドンなど大都市のリベラルなエリートに対して、グローバル化や欧州統合の恩恵から取り残された地方の普通の人々や労働者たちが反発している』という発想ですね。一般的に、このような『落ちこぼれ組』を、主に白人貧困層が占めて、今回、離脱に投票したのだと信じられています」

 「でも、その見方は、現実とは合致しません。労働者階級にロマンチックな幻想を投影し過ぎです。私たちの調査によると、労働者階級の多くは白人ではなく、多様な民族で構成されているのです。彼らはパキスタンに親戚がいたりと、すでに十分国際化されている。労働者が単純にグローバル化に反対するわけではないのです。むしろ、国家の枠にとらわれがちなのは、事務職などのホワイトカラーやちょっとした富裕層といった、見捨てられてもいない人々では、と推測できます」

 「国際的でリベラルなエリートに対する反発は、英国のEU離脱派だけでなく、例えばフランスの『黄色いベスト』運動にも見られます。かといって、多文化で多様な社会を目指す意識を捨て去り、ナショナリズムに回帰しても、何ら問題が解決するわけではない。その試みは過去失敗したし、今後も失敗します。何かを進めようとすると、ナショナリズムとは異なる理念を探るしかないのです

 欧州統合について

「鍵となったのは1989年の『ベルリンの壁崩壊』です。冷戦が終わり、東西に分かれていた欧州の歴史的な統合が実現しました。これは、理想主義者にとって極めて重要で象徴的な出来事になりました。ユルゲン・ハーバーマス氏、故ウルリッヒ・ベック氏といったドイツの思想家たちはこれを機に、ある種の『欧州アイデンティティ』と呼ぶべきものが生まれる可能性に賭けました。欧州は、共通の理想を抱く市民が集まる場となる、と考えたのです

「もちろん、そのような市民がいなかったわけではありません。ただ、ハーバーマス氏の理論は、コミュニケーションが理想的に成立して初めて有効です。公共の場で知識を披露し、議論がなされ、論争が盛り上がり、専門家の意見を参考にし、最後には最も適切な解決法に至る。ただ、それは特定の条件下でしか起きえません」

「みんながテレビで同じ番組を見ていた1950年代とか60年代とかなら、これが可能だったかも知れません。ただ、ソーシャルメディアが発達し、人々が小さな集まりをあちこちでつくって話し合う現代では、そのような議論を交わす公共空間自体が存在しないのです。この状況で欧州各国を欧州連邦として一つの国家にまとめるのは、現実的ではありません」

――では、何を目指したらいいでしょうか。

 「欧州統合が大きな利益を生んでいることに、議論の余地はありません。一方で、国家への帰属意識、国家アイデンティティー、国家安全保障へのこだわりも存在する。重要なのは、この両者の間のバランスです。英国も本来はこのような均衡を図るべきでした」

 「それは、決して難しい営みではありません。例えばデンマークを見ると、彼らは共通通貨ユーロに参加しない一方で、EUを脱退する気もありません。彼らは、EUを存分に利用しています。国家アイデンティティーを失うことなく、欧州各地を自由に移動する。欧州が統合されても国家は消えない。そこに矛盾はありません」

感想

オランダ留学中に欧州統合についての概論的な授業を取っていたことがあるので、「欧州アイデンティティー」(European Identity)とかハーバーマスの公共性の話とか、個人的には懐かしい響きでした。

やはり衝撃的なのは、「多文化主義を誰も口にしなくなった」という部分ですね。1年半ほど前にロンドンに行ったとき、一番驚いたのはその多文化性でした。地下鉄に乗っていても、それこそ本当に色んな人種や民族の人々がいます。僕の泊まっていたホテルは東ロンドンにあり、その地域はバングラデシュの人がとても多い地域でした。

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東ロンドンのマーケット

マーケットはバングラデシュ系の人用の食材や衣類が立ち並んでいた。

 

バングラデシュ料理のレストランにも入ってみましたが、かなり安くて美味しかったのを覚えています。

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料理名は分かりませんが、すごく美味しかったバングラデシュ料理

あと、去年ロサンゼルスに行ったのですが、やはりその多文化主義に驚きました。「ロンドンと同じ」というとやや語弊がありますが、色んな人種・民族が共生している様子はやっぱり似ていました。そのような社会で「多文化主義を誰も口にしなくなった」というのは、いったいどのような事態なのか。驚きます。「統合」とか「包摂」とか、そういった概念は説得力を失ったのだろうか。

それと、「労働者階級の多くは白人ではなく、多様な民族で構成されているのです。彼らはパキスタンに親戚がいたりと、すでに十分国際化されている。労働者が単純にグローバル化に反対するわけではないのです」という部分も重要だと思いました。問題は単純ではないのだなと。

最近は個人的にもヨーロッパ政治への関心が高まっているので、引き続き色々勉強したい。

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