経済に関する本を立て続けに何冊か読みました。
大学ではミクロ経済学入門の授業しかとってない(しかも数年前)ので、まあ恥ずかしながら全くの門外漢です。アベノミクスにはずっと関心を持ってきたので、今回はリフレ派の考えを勉強しようと思って読んでみました。
1.野口旭『アベノミクスが変えた日本経済』
いわゆる「リフレ派」の考え方を知りたいと思い、おそらく代表的な論者だと思ったので読みました。
昔、若田部昌澄さん(と栗原さんの共著)の本当の経済の話をしよう (ちくま新書)を読んだことはあるのですが、最近のリフレ派の本は読んだことなかったので。
グラフが多くて分かりやすいし、書名が与えるイメージよりはかなり客観的に書かれています。すごく勉強になりました。「構造的失業率」を測るのは難しいがおそらく2%台少し、インフレ目標を期限として設定するのはそもそも困難、とか(もっと色々書いてますが、個人的に印象に残った点)。
細かい論点についてもいちいち実証的ですし、同時にアベノミクス反対派への反論も行っているので論争的です。
あと、2014年の消費税増税がやはり大失敗だったのではという主張はけっこうコンセンサスを得ているみたいなので、「これから10%に上がることに今はなってるけど、一体どうなるんだろう…」という気持ちになりました。
2.原田・片岡ほか『アベノミクスは進化する』
先の『アベノミクスが変えた日本経済』で何度も引用されていたので、一応買ってパラパラと読みましたが、こちらはかなり専門的でした。実証部分とかは正直分からないとこもあるんで読み飛ばしてしまうところもありましたが…。これもやはり論争的な本というか、「金融岩石理論」という誤解を徹底的に反論していく、というスタイルをとってます。身もふたもない感じというか、徹底的に論駁していくスタイルは気に入りました。
著者名を今見ると、今では日銀の「中の人」になった方お二人が中心になった本ですね。最近の「展望リポート」の際の会合でも反対を投じた二人です。
3.ブレイディ・松尾・北田『そろそろ左派は<経済>を語ろう』
これはけっこう話題書ですね。北田氏は現代ニッポン論壇事情 社会批評の30年史 (イースト新書)でも痛烈な日本のリベラル&左派批判を展開していましたが、それの経済バージョンという感じですかね。あちらの本でも経済の部分はけっこうありましたが。
この本はこの経済政策が民主主義を救う: 安倍政権に勝てる対案を書いた松尾匡氏との本なので、松尾氏がレクチャーする場面が結構多いです。本の特徴としては、ブレイディみかこさんの「地べた」からのヨーロッパ政治リポートがまぁリアルで。学ぶところ多かったです。色々、事実関係についての反論も寄せられてるみたいなんですが、これもまた論争的に書かれた本なのでそういう反応を引き寄せてしまうのだと思います。
4.飯田泰之ほか『経済成長って何で必要なんだろう』
これはちょっと古い本ですね。2009年の本です。これもまた「リフレ派」とされる飯田泰之さんが中心となった本です。対談集・鼎談集という感じですが、特に飯田泰之・岡田靖の対談が一番勉強になりました。分かりやすいし、ここまで読んだ本とも論調が一致していて。赤木智弘氏や湯浅誠氏のパートも非常に興味深い点はあり、お得な本でした。
本書の主張はただシンプルで「経済成長って必要ですよ」ってことです。2009年だからこういう主張も新鮮味を持ったのか、それとも今でも一部には受けいれがたいものなのか。
5.稲葉振一郎『経済学という教養』
これも少し古い本ですね。ずっと前に買ったのを積読状態でしたが、今回の機会に本棚の奥から引っ張ってきました。門外漢的には「数学を使わない」という編集方針と、思想史的にまとめてくれているのはありがたかったです。ただ、「数学とか勉強した方がきちんと理解できるんだろうなぁ」という予感もびんびん感じました。
本書が想定している「素人」の読者は「ポストモダン的科学批判なんかもちょっとかじってしまって、もちろん『新古典派』経済学は食わず嫌いで、経済について勉強したいな、と思っても、つい『制度の政治経済学』なんてタイトルがついた本の方に手が伸びてしまう人文系知識人、ならびにその読者さんたち」であるという。
軽く読み始めて、第一章にこんなことが書いてあるのでギクッとしてしまい、本腰を入れて読み進めることに。本書は「素人の、素人による、素人のための経済学入門」を掲げているのも納得で、注意深く時間をかけて読めばけっこう難しいことも理解できるように書かれている。
そういえば、本書の比較優位の話は、先に挙げた若田部・栗原の本当の経済の話をしよう (ちくま新書)にも出てきた。そこで読んで稲葉氏の本を読んでみようと思ったのだった。
82頁と91頁に、それぞれ「2つのケインジアンの考え方」、「2つの『流動性選好』説」という表があり、それを見て、なんか今まで疑問に思っていたことが凄く氷塊したというか。というより、「実物的ケインジアン/貨幣的ケインジアン」という分類の仕方が凄くスッキリしていて分かりやすかった。
全体の印象として、まず文章が面白い。スッキリしていて読みやすいし、所々ユーモアもあるというか。というか読んでいて普通に驚いた。あまりにも目配せが効いているというか。気になってたことが全部書いてあるし、新たに生まれてくる疑問もその都度解消してくれる感じ? 「著者凄すぎだろ…」って思いながら読んでました。
まあこんな感じで読み進めてきたわけですが、これからどう勉強していこうかなぁというのはよく分からないです。稲葉『経済学という教養』では多くの文献を提示してくれているので、それをちょっと見てみようかなというくらい。稲葉の言う「『ずぶの素人』から『筋金入りの素人』へ」というテーゼは逆説的に励まされるものであったが、『ずぶの素人』から抜け出せたかというと甚だ心もとない。
そういえば、稲葉本のあとがきでは「要するに左翼によって本書は『ネグリや金子勝に騙されるな、そこには左翼の未来はない」、それから『もっとケインズを真に受けろ』という本です」とあった。2003年に初版が出版され、2008年に文庫版が出たが、2008年に書かれたあとがきである。今読むと、ブレイディ・松尾・北田『そろそろ左派は<経済>を語ろう』と基本的には同じメッセージであるように読めましたね。
【追記】
「リフレ派の経済本」とまとめましたが、そうまとめちゃっていいのかっていう迷いはあります。なんというか、一般的に外からイメージされるような派閥?党派?があるわけではないと思うので。もっとぼんやりとしたものみたいです。まあ、この五冊を読むときのモチベーションは「リフレ派の考えを勉強しよう」というものでしたし、読後感としてもそれぞれの主張はけっこう収斂していると感じました。