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映画の感想と勉強日記

映画『バクマン。』感想

おなじみジャンプの人気漫画を、『モテキ』の大根仁監督が映画化。話題作ですし、映画レビューサイト等では概ね好評のようです。以下、ネタバレありです。

ストーリー

「優れた画力を持ちながら将来の展望もなく毎日を過ごしていた高校生の真城最高佐藤健)は、漫画原作家を志す高木秋人神木隆之介)から一緒に漫画家になろうと誘われる。当初は拒否していたものの声優志望のクラスメート亜豆美保への恋心をきっかけに、最高はプロの漫画家になることを決意。コンビを組んだ最高と秋人は週刊少年ジャンプ連載を目標に日々奮闘するが……。」

映画『バクマン。』 - シネマトゥデイ

 

良いところ① ヒロインの小松菜奈

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最高のヒロインでした。登場シーンでは、息を呑みましたね。大根監督は『モテキ』同様、自らカメラを持って撮影したといいます。カンパニー松尾のハメ撮り方式を真似したんだとか。大根さんは、いま女優を撮らせたら一番じゃないでしょうか。

良いところ② サクサク進むストーリー

原作はリアルタイムで、それこそ「週刊少年ジャンプ」で毎週読んでいましたから、ストーリーはすべて知っている状態でした。物語が盛り上がる場面もすべて知っているのですから、ある意味「確認」しながら観ることになります。そのような状態で臨んだ僕ですが、サクサク進むストーリーにはかなりストレスなく観ることができました。2時間という範囲でストーリーを展開する必要がありますから、重要なエッセンスだけを抽出してうまく脚本にまとめたなという印象です。
 
でも、もしかしたら、サクサク進みすぎるという印象を持つ方もいるかもしれません。というか、「続編があるのか?」と疑ってしまうほど、ストーリーはある意味中途半端な状態で終わってしまいます。しかも、その中途半端さは、漫画『スラムダンク』31巻の展開をそのままトレースしたものなのです。これは興ざめしました。
 

スラムダンク』への「オマージュ」なのか・・・?

この映画『バクマン。』には、何度も『スラムダンク』への「オマージュ」(「パロディー」といってもよい)があります。登場人物たちが『スラムダンク』自体の話をしていますし、流川と桜木のハイタッチのシーンも借りています。しかし、最後の展開まで借りていいのか・・・と疑問を持たずにはいられませんでした。
 
というか、漫画『スラムダンク』自体のあの終わり方も、問題があるものでした。伏線がほとんど回収されていませんし、読者は宙ぶらりんのまま放置されていますから。作者の井上雄彦も、あの段階で終わらせる気はなかったといいます。『スラムダンク』があの終わり方で許されたのは、山王戦の異常な盛り上がりがあったからです。「あれ以上のものは、もう書けない」と作者が感じたからであり、読者もこれがクライマックスなのだと感じました。
 
では、今回の映画『バクマン。』に、『スラムダンク』ほどの盛り上がりがあったかどうか。
 
ぼくは、あんまり盛り上がりませんでした。
 
 

あんまり盛り上がらなかった理由

その理由を書きます。
 
まず、終盤の主人公たちが直面する困難に、必然性がないと思いました。画面を見ていると、最高(佐藤健)と秋人(神木隆之介)はアシスタントをつけずに漫画を描いているのですね。最高が絵がうまいとしても、秋人がアシスタント代わりに最高を手伝うというのは、いくらなんでも無理があるような・・・。それと、高校生漫画家たちにアシスタントの1人もつけずに、週刊連載をスタートさせるジャンプ編集部って何なんでしょう。案の定、クライマックスで最高がぶっ倒れます。「そりゃあ、そうだ」と見ていて思いました。これって、主人公2人が単に間抜けで、ジャンプ編集部も高校生相手に責任を負っていないだけですよね。主人公たちはアシスタントを願うか、編集部に相談するべきです。編集部も、彼らのサポートをするべきです。
 
主人公が苦境に陥る→仲間との「友情」「努力」「勝利」(ジャンプ精神)
 
この展開で盛り上がりをみせるようなのですが、その「苦境」が単純に主人公たちの落ち度にあるのは・・・。だめでしょう。「体調管理しっかりせえよ」と思わず突っ込んでしまいました。単にマヌケなだけですから。そういう意味で、苦境に陥る「必然性」が弱いかなと。このような場合、主人公たちに感情移入するのがどうしても難しくなります。佐藤健には感情移入できませんでした。「お前が悪い」としか思えなかった。
 

個人的に乗れなかった理由

序盤の見せ場で、テンションがいまいちブチ上がらないところ。亜豆美保と婚約するところです。
これは個人の問題だけれど。漫画であのシーンを読んだ時は衝撃が走った。すぐに2度目を読んだ。そして、友達が持ってきていたジャンプを、教室中で回し読みした記憶がある。やはり幾分美化された、この記憶には勝てなかった。もっと盛り上がったんだよなあ。
 

やはり難しい題材

あと、やっぱり、映画にするには特に難しい漫画だと思った。20巻という巻数はさておき、一話ごとの密度がかなり高い作品だからである。
 
でも、いい場面も多かったし、悪くはなかった。例えば、主人公の最高が古本屋でおじさんの「川口たろう」の漫画を見つけるシーンはすごくよかった。あと、最後のエンドロールで、歴代ジャンプ漫画の背表紙が続々と移されるところは涙が出そうになった。自分も多かれ少なかれ、ジャンプで育ってきたんだなぁと。ジャンプの歴史を感じましたし、あれはすごいエンドロールです。でも、ジャンプの漫画が凄いってことですからね・・・。その意味で、若干ずるいかなと。してやられました。
 
(こんなこと言ってはだめだろうし、失礼だと思うけど、同じスタッフ・キャストでドラマ版を観たいと強く思った。無理だろうけど・・・。続編に期待ということかな。)
 
【追記】
いま読み返すと、少し手厳しすぎたように思います。基本的には面白いと思いましたし、なにより海外で通用する映画だと思いました。
日本ではよく「海外の~賞受賞!」みたいなのが宣伝されますが、たいていは「どこの国の賞なんだよ」とツッコミを入れたくなるものが少なくありません。そういう映画は、国内で売るために海外の賞で「箔をつける」だけなのです。すべてそうだとは全く言いませんが、そういうものが結構多いという話です。どこがどう、海外でウケたのだろう、というのがよくわからないことが多い。
一方、この映画『バクマン。』は海外のマンガファンにウケるのではないか。というのも、冒頭で紹介されるジャンプの歴史や、最後にある、歴代ジャンプ漫画の背表紙が連続して映し出されるシーンは、やはり感動するからです。漫画という歴史に対して、そしてそれを作ってきたジャンプと漫画家達に対して畏敬の念さえ抱きました。そして、登場人物たちが漫画を描いていくシーンは、演出がそれ自体かなり面白いからです。ここらへんは、海外にいるマンガファンにはかなり歓迎されるのではないでしょうか。
日本のポップカルチャーをこれほど描き出した映画はそうそうないでしょうし、海外でも十分通用するものだと思いました。
 
そういえば、映画評論家の森直人さんが同じことを言っておられた。
本作には日本独自に発展したポップカルチャーの黄金期を体験した大根の愛情があふれている。海外に強く発信して欲しいのは、こういう日本映画
海外でどのように受け止められるか、楽しみです。