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Hooney Got His Pen

映画の感想と勉強日記

ラグビー日本代表はなぜ南アフリカ代表に勝ったのか?

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僕のラグビーW杯事前予想

正直に告白すると、あの南アフリカに勝つとは微塵も思っていなかった。その可能性すら考えたこともなかった。”いい負け方”しか考えていなかった。南アフリカを30~40点台に抑えて、ジャパン(ラグビーでは代表をこう呼びます)はトライ1・2本と五郎丸のPGで20点少しくらい(?)取れれば上出来だと。そして、スコットランド戦に向けてけが人だけはないように・・・と思っていた。

これが、高校の3年間ラグビー部に所属、4年前のワールドカップを観て以降はジャパンの試合を追い続けていた僕の想定(勝手に描いたシナリオ)だった。友人と話しても、この予想はだいたい妥当だという評価だった。「大会全体としては、南アフリカに健闘・惜敗、スコットランドに奇跡の勝利、サモアからはなんとか勝ち点を得て、アメリカに勝利・・・そして、ベスト8はいけるのかどうなんだ?」というところだろう。この予想はかなり手堅いと思っていたし、この結果だけでも ファンとしては十分すぎる満足感を得ることができたと思う。これでも希望的な観測だった。

 

いきなりごめんなさい・・・

まさか、まさかの勝利だった。こんなにも早く、予想が覆されるとは思っていなかった。あの南アフリカである。2度の優勝経験を誇り、ニュージーランドと並んで誰もが知るラグビー最強国のひとつである。

よく言われるように、ラグビーは番狂わせが起こりにくいスポーツだ。高校生の時分でラグビーをやっていた経験から、この通説は痛いほどよく分かる。国際試合の結果を見てみると、世界ランキングを綺麗に反映した結果になることがほとんどだ。

(というか、サッカーのFIFAランキングなどは、ある意味では指標として機能していないのかもしれない。)

なぜかと言われると、いろいろな理由があると思う。ラグビーは接触が常にあるスポーツだから、力量差や体格差があると、それが結果へと如実に反映されてしまう。もし、階級の存在しない格闘技があれば、体格の大きな選手がほとんど常に勝つだろう。そう考えてもらっていいと思う。いくらスピードで勝負すると言っても、やはり限界はある。

では、なぜ体格差も実力差もある南アフリカ代表に、ジャパンは勝つことができたのだろうか。いくつも理由は考えられるが、特に3つのポイントに絞って書いていきたい。

1.FWセットプレーの工夫

FWのセットプレーとは、スクラムラインアウトである。一見すれば分かるが、南アフリカとジャパンでは体格差がかなりある。日本で最長身の選手の伸長が、南アの選手の平均身長だという。そして、FW8人の合計体重は50キロ以上、南アの選手のほうが重たい。これだけで、相当なアドバンテージである。

工夫①スクラム

ラグビーでは、ボールを前に落としたり(ノックオン)、ボールを前に投げてしまったり(スローフォワード)すれば、それは反則となり、相手ボールからのスタートとなる。この再開時に行われるのが、スクラムである。

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低い姿勢になって押しくらまんじゅうするやつです。

これまでの日本代表は、スクラムが課題とされてきた。前回のW杯でも強豪相手に全く歯が立たず、相手に押されまくって日本ボールを相手ボールにされるシーンが多かった。当時はテレビの前で、「もう頼むから、これ以上押さないでくれ・・・」と願ったものである。

そして前回のW杯後、これまで強豪国を率いてきた世界的名将であるエディー・ジョーンズがヘッドコーチに就任した。エディさん(親しみを込めてこう呼ばれる)はすぐに、元フランス代表のマルク・ダルマゾ氏を招いて、スクラムを徹底強化させた。その後、ジャパンのスクラムは見違えるほど強くなり、強豪国にも引けをとらなくなった。

そして、南アフリカ戦である。実は、前半はスクラムで南アに押されていた。世界屈指のスクラムを誇る相手だから、ある程度は仕方がない。ここでジャパンFW陣は、発想を転換していた。球出しを早くしたのである。スクラムをえんえんと押したり、押されたりするのではなく、ボールをNO.8の位置で出してしまうのである。こうすれば、南アのスクラムが強くても、少なくとも相手ボールになることはない。

スクラム自体の強化、そしてスクラム戦略の柔軟性。これで南アに互角に戦う準備は整っていた。

工夫②ラインアウト

ラグビーでは、ボールがラインの外に出た時、プレーは一旦止まります。そして再開するときには、「ラインアウト」が行われます。サッカーで言う「スローインと思ってくれればいいです。

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今回の試合では、ラインアウトがかなり工夫されていました。HO堀江がとぼとぼ歩いてきたと思ったらいきなりボールを投げたり、4人しかラインに並ばなかったり、あえて一番遠くを狙ってみたり・・・。長身の選手が揃う南ア相手には、日本はやはりどうしても不利になってしまう。不利であることを率直に認め、すべて考慮に入れたうえで、ラインアウトでボールをいかに獲得するか。

考え抜いた戦略と、アイデアに富んだ工夫。そして、それを可能にする技術すべてが揃っていたと思う。

ラグビーの試合では、スクラムラインアウトというセットプレーが勝敗を大きく左右する。ジャパンは常に有利に立っていたとまでは言えないまでも、自分たちのボールを相手に取られることはほとんどなかった。これだけでも、相当なことだと思う。

 2.五郎丸のキック

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世界中の、どれだけの子供たちが真似をするだろう、このポーズ。そして、

「日本の子供たちは五郎丸に憧れてラグビーを始めるだろう」

とは、エディーさんの言葉。

日本代表が大番狂わせを演じた要因として、一番大きいのはもちろんFB(フルバック五郎丸歩のキックであろう。彼のキックが序盤から冴えまくっていた。相手の反則によって与えられるPG(ペナルティ・ゴール)はもちろん、陣地取り合戦のキックも相当伸びていた。清宮克幸は「いつもの10mは伸びていたんじゃないか」と言っていたが、僕もそう感じた。

ラグビーにおいて、格上の相手に勝つ場合に必要とされるのがキックによる得点である。ラグビーの得点は、トライが5点、トライ後に与えられるコンバージョン・キックが2点、そして相手の反則によって与えられるペナルティ・キックが3点である。日本は南ア相手に、そう多くのトライが取れるようには思えない。では、相手の反則を誘いながらペナルティ・ゴールを重ねることで、3点を着実にとっていくというのが現実的な戦い方である。

五郎丸は、最後に大きく外している以外は、7本中6本のキックを成功させている。彼の得点は、24点である。日本が得点した34点のうち、ほとんどが五郎丸の得点なのだ。

NHKのドキュメンタリー「アスリートの魂 五郎丸歩」は、五郎丸の正確無比のキックがどのように生み出されたのか丁寧に取材されており、たいへん興味深かった。五郎丸は上の写真にあるポーズと併せて、独特の「ルーティン」を確立している。


ラグビー日本代表 五郎丸歩 キック前 謎の”儀式” - YouTube

 ボールを2回くるくると回す、後ろに3歩、ボールを押し出すイメージをつくる、ニンジャポーズ(勝手に命名)、8歩の助走、そしてキック。五郎丸は、このルーティンを徹底させることを常に意識しているのだという。W杯のような極度にプレッシャーがかかる舞台では、いかに緊張せずに普段通りにプレーをできるかが重要になる。

五郎丸はルーティンのみを考えることで、雑念を排し、キックに集中するのだ

それが高い成功率を生み出している。世界でもトップ5に入るキッカーだと言われるのは伊達じゃない。

 

 3.南アを圧倒したフィットネス

 ラグビーでは、「運動量」「スピード」「持久力」あたりを総括して一言で「フィットネス」と呼びます。

ヒットの強さ(力)=体重×(スピードの2乗)

だから、体を大きくすることはもちろんのこと、試合終盤まで運動量を落とさないことがラグビーの場合は特に重要になってくる。体力が落ちてきた終盤にスピードが落ちた状態になってしまうと、相手に当たり負けしてしまう。

今大会に向けてジャパンが取り組んだのが、この「フィットネス」の向上だった。以下の動画を見れば、いかにきつい練習に取り組んでいたのか分かると思う。朝5時半から練習が開始し、3部練習は当たり前で、4部練習もあったそうな。一年間で約150日以上の合宿が宮崎で行われた。


ラグビー日本代表キャンプリポート「ラグっち」~宮崎合宿地獄のトレーニング編~ vol.4 - YouTube

これは和やかですが、凄まじい練習量だったようです。

 

これだけの練習を積み上げてきたジャパンは、特に終盤は南ア相手にフィットネスで圧倒していた。足取りが重くなる南ア選手相手に、交代の妙も相まって、フィットネスで圧倒する。これが、エディーさんの描いていたシナリオだったのだろう。

後半では、ジャパンの連続攻撃について行けずに、南アは反則を繰り返した。その都度、五郎丸がキックで得点を重ねる。理想的な試合展開だった。

そう、南アフリカ相手に個人技で突破されることも含めて、すべて事前のゲームプラン通りだったのではないだろうか。おそらくそうだと思う

「僕らが見慣れたいつものラグビー日本代表」であれば、相手に力量差を見せつけられたところで、そのままずるずる失点を重ねて・・・という試合になったと思う。

それが今回の「ブレイブ・ブロッサムズ(Brave Blossoms=勇敢な桜の戦士たち)」は、相手の個人突破による失点はほとんど気にかけず、動揺を見せなかった。想定の範囲内だったのだろう。個人技の突破は気にかけていなかった。また、特に失点後のディフェンスが素晴らしかった。絶対に、連続失点をされない。その強い覚悟が伝わってくる気迫のディフェンスだった。

 

いかがだったでしょうか。他にも色々な理由はあると思うし、五郎丸以外にも選手個人のプレーは本当に素晴らしかったと思う。

「W杯週間ベスト15」に選ばれた、LOトンプソン・ルーク、立川理道、リーチ・マイケル、田中史郎はベストパフォーマンス。後半から出てきたNO.8マフィは、南アの選手を個人で圧倒。SO小野の冷静な判断は、ゲームをコントロール。松島幸太郎は、アタックもさることながら、弱点と思われていたディフェンスが光った。何度救われたことか。そして、最後のトライを決めたカーン・ヘスケスは、あれがファーストタッチ。LO大野は、相変わらずのいぶし銀で、玄人好みのプレイ。フロントローの畠山、三上、堀江らは南ア相手にしっかりスクラム。挙げていけば、きりがない。

今日の夜10時半キックオフの対スコットランド戦も、ブレイブ・ブロッサムズはやってくれると思う。そう思わせる、完璧な南アフリカ戦だったから。五郎丸の言うように、「奇跡ではなく、必然」の試合だった。

 

清宮克幸の言葉

最後に、今回の勝利を受けての清宮克幸氏の言葉を紹介したい。

清宮克幸「自分の考えも変わった。これまで「日本人のための」「日本人にとっての」と考えていたが、国籍や人種の論争はさまつな話だと感じた。本物の勝負の場所に理屈はいらない。まだまだ見たい。ベストの選手たちのベストな戦いを。」

日本ラグビーの勝利、向こう30年語り継がれる - ラグビーワールドカップ2015:朝日新聞デジタル

いい言葉だなあ。これは僕も本当にそう思った。前回大会はSOも(たぶん)FBも、もちろんバックローもいわゆる「外国出身選手」で、主要なボジションをほとんど占めていた。「日本人もっと頑張れ」みたいな雰囲気がどことなくあったと思う。今回は、あの頃よりもこういう声が少なくなったような気がしている。そりゃ、あんな試合を見せられるとそうなるに決まっている。

最後まで体を張り続けるFLマイケル・ブロードハーストと、LOトンプソンには涙が出た。試合終了直前のペナルティでスクラムを選択した主将のリーチには震えた。NO.8のツィのハードワークも凄かったけど、交代して出てきたアマナキ・レレイ・マフィが南アフリカの選手を圧倒していたのには驚いた。カーン・ヘスケスのトライに至る連続攻撃は、エディさんが目指すジャパン・ウェイを象徴していた。

清宮監督の言うように、「本物の勝負の場所」に理屈は必要ない。

日本ラグビー界の最高の選手達が、W杯という最高の舞台で、最高の準備をしてきて、あの南アフリカに勝った

この事実が重要だろう。

 

最後に、五郎丸の男前なツイートを貼っておきますね。

【追記】 

上のツイートに関して、五郎丸のコメントがありました。

日本代表、五郎丸歩。スコットランド代表戦と「外国人」ツイートの真意語る【ラグビー旬な一問一答】(向風見也) - 個人 - Yahoo!ニュース

「2019年に向けて、クリアしなきゃいけない問題だったと思うんですよね。ラグビーは特殊なので、どうしても『何で外国人が入っているんだ』という観られ方をする。ただ、メディアの方にそこへ注目してもらうことで、『ラグビーはそういうものなんだな』と日本人として理解しやすくなると思います。
我々は2019年(日本開催のワールドカップ)のために日本を飛躍させよう、日本のラグビーを復活させようと、そのために2015年に歴史を変えるんだ、と、4年間しっかりと準備をしてきた…。
そういった経緯で、あのようなコメントを出しました」