Hooney Got His Pen

映画の感想と勉強日記

映画覚え書き(2015年8月)

ヤコペッティの残酷大陸(1971)

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あの〈残酷〉監督が アメリカの巨大な傷口 から狂乱の歴史に迫り 遂に記録映画の限界を破る!
「さらばアフリカ」から8年…鬼才ヤコペッティが 構想もあらたに全世界に叩きつける衝撃ドキュメント!

いまこそ、この凄絶な《真実》を見つめよう!
あの〈残酷〉監督が アメリカの巨大な 傷口から狂乱の歴史にせまり 記録映画の壁を破る!
アフリカからアメリカ大陸へ連れていかれる黒人奴隷たちの無残な姿を描いている。奴隷船の船倉にギュウギュウ詰めにされて運ばれる姿、港での集団消毒、獣医による健康診断、奴隷市場での売買、女奴隷を襲う白人の無法者、13歳の黒人売春婦、高値の混血奴隷、逃亡奴隷のハンティング、奴隷を増やすための繁殖牧場といった内容。あくまでフィクションのストーリーのなかに、ヤコペッティ自身が「すべて歴史的事実」と言うこれらの残酷シーンが次々に繰り広げられていく。(http://www.allcinema.net/prog/show_c.php?num_c=23712)
観てすぐ、テンションの高い感想
予想の何倍も上を行った。圧倒的だった。凄すぎる。なんか涙出た。めちゃくちゃショック受けました。
『ジャンゴ』や『それでも夜は明ける』を見直したくなった(特に、ジャンゴが皆殺しにするところとか…)。
「残酷大陸を見れば、ジャンゴ見たときの怒りが変わってきますよ」(by 高橋ヨシキ)

 

とにかく、「このシーン、どうやって撮ったんだ?」の連続なんですよ。観終わったら呆然としてしまった。圧巻です。
 
正直、観る前は舐めてた。安っぽい露悪的な描写なんだろうとか思ってた。ヤコペッティさん、ごめんなさい。本当に素晴らしいです。ドキュメンタリーの体裁をとった劇映画ですが、「本物」が映ってました。映ってしまっていました。あんた、天才だ!
いや、これはマジですごい映画を観てしまった。オールタイムベスト級です。
 
しかも、DVD特典が高橋ヨシキによるインタビューという。驚きました。インタビューがめちゃくちゃ面白かったので、以下に説明を加えつつ少しまとめます。
 

インタビュー映像まとめ、考察

ヤコペッティはイタリア人で「ドキュメンタリー監督」といえますが、本作は完全なフィクションとなっています。現代の撮影隊が、奴隷制がある18・19世紀のアメリカへと時空を超えてタイムスリップし、現地でインタビューをしてまわる。
「アフリカから連れてこられた黒人たちの運命と、その後の歴史を追うのです」ヤコペッティ高橋ヨシキによるインタビューより、以下同じ)
映画の冒頭は、撮影隊がヘリコプターで18・19世紀アメリカへ降り立つというものですから、フィクションであることを明示しています。
 
なぜ、ドキュメンタリーを作っていたヤコペッティが劇映画を作ったか。

その理由は、本作以前の以前の作品(『世界残酷物語』←これもめちゃくちゃ面白い、『さらばアフリカ』等)で、ヤラセ疑惑が出たからというのです。『世界残酷物語』は世界中をまわって人々の風俗を撮影してきて、人間の残酷さやおかしさ(バカバカしさ)をこれでもかと表現している素晴らしいドキュメンタリーでした。しかし、その映像はどう見てもヤラセと思われるものが含まれていました。

「あんな映像、ヤラセじゃないか!ドキュメンタリーではない!」という野暮な指摘に怒ったヤコペッティは、それならばと完全なフィクションとして『ヤコペッティの残酷大陸』を作ったのでした。
 
「真実」を描く映画
「重要なのは、私がその現場に立ち会っていることです。後ろめたいことはありませんでした。命を危険にさらしたことは何度もありましたが。
見てもいないものを作ったり、再現したりはしていません。これは誓って真実です。」ーヤコペッティ
ヤコペッティは奴隷制について相当綿密に調査をしたようです。様々な資料にあたって、歴史に基づいて忠実に映像化したと語ります。
「フィクションであり、奴隷制に関する再現ドキュメンタリー」
この言葉が、『残酷大陸』をよく表していると思います。かつてなかった手法で、ヤコペッティはフィクションとドキュメンタリーの境目をいきつつ、両者の区別をあいまいにしています。本当にすごい。
 
何が一番すごいかって、この映画に出てくる黒人は、アメリカに当時住んでいた人をそのまま現地でスカウトして起用しているんですね。だから、本当に黒人奴隷の子孫だったりするわけです。しかもすごい人数のエキストラがいて、数百人単位で起用されています。
どれだけヤコペッティの交渉力が凄いか、そしてそれだけ「人たらし」なのか。だって、普通は奴隷役を演じるのなんて嫌でしょう・・・。それをこの映画では、皆がいきいきと演じていて、もう演技に見えないのですよ。そこにいる「黒人奴隷」にしか見えなくなってくる。気付けば、自分も奴隷制のあったアメリカへとタイムスリップしているでしょう。
 
 
さあ、
いまこそ、この凄絶な《真実》を見つめよう!
 
補足

インタビューでもヤコペッティ本人が語っていますが、彼の作品が初めて大きく評価されたのは日本だったといいます。それがきっかけで他国でも評価されるようになったと。彼の作品を初めに評価したとは・・・。凄いです。

あと、『残酷大陸』は高校とか大学の授業で補助教材にでもすればいいんじゃないかしら・・・。当時の奴隷制がどんなものだったか、視覚的に理解できます。
 
 

世界で一番パパが好き!(2004)

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BSプレミアム 録画】
安定のケヴィン・スミス映画。『クラークス』の頃から変わっていないんじゃないかって気もしたけど、こちらは大人になる映画でした。たぶん、監督自身がそういう境遇になって成長したんじゃないかな。その変化も楽しかった。
 
家族との生活を取るか、仕事を取るか。けっこう厳しい選択を迫られている映画だった。こんな邦題だけど、ただ楽しいだけのコメディではありません。クライマックスにはホロっときます。
 
個人的に、レンタルビデオ店で働いてるリヴ・タイラーが最高に可愛かった。ケヴィン・スミスの映画には、毎回ビデオ店が出てくる。本人も相当映画オタク(タランティーノみたいな)なので、彼個人の妄想なんじゃないかっていうw 美人で押しの強い店員さんと恋に落ちるって展開ですから。はい、とても良かったです。
 
娘役の子も可愛い。ベン・アフレックもよかったね。『チェイシング・エイミー』の頃より成長してた。
 
こういうちょっとかわいい映画もよく見ます。あと邦題の割に、飽きが来ないでずっと見てられる映画です。ところで、本作はゴールデン・ラズベリー賞にノミネートされたらしいですが、なんかムカつきました。『チャーリーズ・エンジェル2』は作品賞として受賞していて、あれにもムカつきました。ラズベリー賞は、選ぶセンスがないと思う。
 

戦場のメリー・クリスマス(1983)

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このビートたけしの起用はまさに"発見"ですね。デヴィッド・ボウイ坂本龍一はなんとも言えないほどセクシーでした。ジョニー大倉も素晴らしかった。
 
確かに全体としてちくはぐなところもあるのですが、このテーマを描く上で大事なところを絶対に外さないから、映画として面白いんだと思います。全体のバランスなんか全く気にならんです。あのラストシーンは本当に素晴らしい。あのためにこの映画を作ったんだと、最後に分かりました。
 
それにしても、ヨノイ大尉(坂本龍一)とハラ軍曹(ビートたけし)は本当に"Mad"(イギリス兵のセリフにある)にしか見えません。それを理解しようとするローレンス(トム・コンティ)との友情は尊いものだと思いつつ、なぜ彼らがあのようになったのかに思いを馳せました。
 
"Mad"ですませていいのか
この映画だけを観ると、なぜヨノイ大尉とハラ軍曹はあれほど"Mad"なのか、その理由について疑問が残ります。いきなり食事を取らないように命じたり、言うことをきかない捕虜は虐待し、空腹の捕虜に労働をさせる。本当に”Mad"なだけだったのでしょうか。その奥に理由はなかったのか。
 
これらの理由を考えていたところ、ちょうど読んでいた本に書いてありました。

戦後史の解放I 歴史認識とは何か: 日露戦争からアジア太平洋戦争まで (新潮選書)

 日露戦争時、日本は国際社会の一員として認められようと積極的に国際法を適用し、その人道的な捕虜の取り扱いは各国で高い評価を受けました。つまり、日露戦争におけるロシア人捕虜の丁寧な取扱いにより、日本は「文明国」としてのイメージを世界に与えます。しかし、日本国内ではその取扱いに対し、「捕虜」のイメージに関する違いを背景として、批判的な声が強まっていきます・・・。そして、1937年以降は、日中戦争の勃発によって教育機関を短縮して軍人を戦場に送る必要が生じたことから、国際法教育は基本的に中止されます。(細谷雄一歴史認識とは何か』(新潮選書、2015年、pp.114-116)
全戦上でのイギリス兵の死亡率が五・七パーセントであり、またドイツ軍やイタリア軍のもとでもイギリス兵戦争捕虜の死亡率がおよそ五パーセントであったのに対して、日本軍捕虜となったイギリス兵の死亡率はなんと、二十五パーセントにものぼった。このことが、その後の日英関係に暗い影をさしていく。個別的には、自らの判断で連合国の戦争捕虜に対して親切に対応した兵士もいたが、全体としては残虐な取扱いが数多く見られ、それは日本の軍人がジュネーブ俘虜待遇条約などの国際法を十分に学んでいなかった結果でもあった。(細谷前掲書、p.215)
 『戦場のメリークリスマス』におけるセリフのなかでも、イギリス兵が「ジュネーブ条約に違反してるだろ!」と怒るシーンがあります。それを言われたハラ軍曹(ビート武)は、(いつもの顔で)へらへらします。これら背景があってこその、あのシーンだったのだと、今は分かります。
 
 『戦場のメリークリスマス』は本当に不思議な映画で、捕虜に対するひどい仕打ちを描きながら、それと同時に「自らの判断で連合国の戦争捕虜に対して親切に対応した兵士」を描くんですね。捕虜との間に奇妙な友情(?)が生まれていくさまは、観ていて不思議な気持ちになりました。
 
今回は、互いに関連のない3本でした。適当に選んで映画を観ています。