Hooney Got His Pen

映画の感想と勉強日記

『仁義なき戦い』

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去年1128日、俳優の菅原文太さんが肝がんのため死去した。81歳であった。

菅原さん東日本大震災後、俳優としての活動を休止し、社会問題に積極的に取り組んできた。亡くなる直前の111日には沖縄知事選に駆けつけ、「辺野古基地移設反対」を訴える翁長雄志さん(現知事)を応援する街頭演説にも立っていた。

「仲井真さん、弾はまだ残っとるがよう」。演説の締めくくりに、菅原は言った。これは言わずと知れた大傑作映画『仁義なき戦い』のセリフである。『仁義なき戦い』によって、菅原はスターダムをのし上がり一挙に人気俳優となった。

仁義なき戦い』は戦後の広島で実際に起こったやくざ抗争を描いた1973年の東映映画であり、監督は天才・深作欣二、脚本は笠原和夫そして主演は菅原文太。一作目の大ヒットを受けてすぐにシリーズ化され、73年の興行収入ランキングに3本がランクインした。『キネマ旬報』が選ぶ「日本映画史上ベストテン」では歴代第5位に選ばれるほど、評価の高い作品である。

仁義なき戦い』はいわゆる「実録映画」の走りとされている。それはリアルでかっこ悪いアンチヒーローの物語であり、高倉健さんの主演していたような「任侠映画」とは全く異なる。「任侠映画」とは、様式美に彩られた映像によって構成されたスタイリッシュな映画で、その内容は「弱気を助け強気をくじく」義理人情の世界である。

1960年代から70年初頭にかけて多くの任侠映画が作られたが、映画界はやがて低迷期に入っていく。観客の映画離れが起こるのである。テレビの普及によって、観客はわざわざ映画館に行かなくなった。現在と同じで、テレビで見れるものであれば、わざわざ映画館に行く必要はないのである。そして、観客と映画界は、映画でしかできない過激な表現を求めるようになった。まさに『仁義なき戦い』はそのような状況下で生まれた傑作である



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映画評論家の町山智浩「俳優の演技・シナリオ・セリフの含蓄の深さ・カメラの撮り方・編集、何から何まで、『仁義なき戦い』が世界の映画史上に残る傑作」というように、『仁義なき戦い』は要素ひとつひとつが全てハイレベルであり、驚くほどの完成度である。では、そのような傑作はいかにして生まれたのか。

仁義なき戦い』は、約20年に渡る広島やくざ抗争の渦中の人である美能幸三さんの手記を基に、作家の飯干晃一が構成し『週刊サンケイ』で発表されたものが原作である。脚本は笠原和夫。笠原は任侠映画の脚本を数多く手掛けてきたが、勧善懲悪の任侠映画に疑問を抱いていた。そして、監督は天才・深作欣二。彼もまた任侠映画に反発し、「そんないい人のヤクザじゃ生きていけない」と違和感を覚えていた。

そして、菅原文太である。菅原は『仁義なき戦い』以前は、任侠映画路線にうまく乗れず、ブレイクを果たせていなかった。原作を読んだ菅原は、東映に「映画化するなら俺を出せ」と言っていたという。このように、当時の映画界のアウトサイダーといえる三者が集まり作られたのが戦後のアウトローを描いた仁義なき戦い』であった。

仁義なき戦い』は物々しい音楽をバックに、原爆のきのこ雲から始まる。敗戦後1年の昭和21年、広島県呉市の風景から始まり、印象的なナレーションが続く。「戦争という大きな暴力こそ消え去ったが、秩序を失った国土には新しい暴力が渦巻き、人々がその無法に立ち向かうには、自らの力に頼るほかはなかった」。そして、戦後の闇市での様子が描かれる。序盤のアナーキーな雰囲気には戦後の混乱と、復員兵たち若者の自由闊達なエネルギーに満ち満ちており、まさに青春映画なのである。

ストーリーを説明する。復員兵の広能昌三(菅原文太)は、偶然チンピラのケンカに巻き込まれたことをきっかけに、山守組のやくざとなる。そして、親分・山守(金子信雄)のために体を張って鉄砲玉を務める。つまり、相手方の幹部を殺害し、刑務所に入れられるのだ。刑期を終えた広能は組の幹部になるはずであったが、数年の間に状況は一変し、あらたなやくざ抗争に巻き込まれていく…。

このように、血なまぐいやくざのサバイバルを描いた『仁義なき戦い』は、当時の観客たちに熱狂をもって受け入れられた。斬新なスタイルに衝撃を受けただけではない。観客は、主人公の広能(菅原文太)に深く共感したのである。それは、深作欣二が映画に込めたメッセージである「戦後、何ら反省することなく経済成長を遂げてしまった日本社会への怨嗟とそこから崩れ落ちてしまった者への共感」(引用は後述)であった。そして、それらがバイオレンス映画として結実したのである。

世界の映画史に燦然と輝く傑作映画、『仁義なき戦い』。この機会にぜひ一度観てほしい。


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参考文献

映画秘宝2月号、洋泉社

引用は『鮮烈!アナーキー日本映画史』p.161中段5行目~9行目、田野辺尚人

参考

町山智浩の映画塾!「仁義なき戦い」<予習編>

https://www.youtube.com/watch?v=33bqIdtb_ps

朝日新聞2014123日「強烈なアンチヒーロー 菅原文太さんを悼む 映画評論家・監督の樋口尚文

映画『仁義なき戦い1973113日公開、製作:東映(京都撮影所)、監督:深作欣二、脚本:笠原和夫、原作:飯干晃一、出演:菅原文太松方弘樹田中邦衛ほか